6月
 練 習
校長 野口芳夫
 前日が荒天だったため、当日の開催が危ぶまれた今年の運動会。迎えた朝は晴れ上がり、まったく心配のない素晴らしい天気と熱気を感じながらスタートしました。
 5月の連休明けから約3週間、体育の時間や休み時間などを使って練習してきました。この間、様々な取り組みを通して、共に励まし合い支え合いながらがんばる気持ちが学級や学年をひとつにまとめていく、その過程を大切にしていくことが春に行う運動会の大きな目的の一つです。それぞれの演技や競技が終わるたびに来賓や保護者・地域の方々から惜しみない声援や拍手をいただいて、子供たちも十分満足したことでしょう。
  「苦しいこともあったけど、みんなが応援してくれてうれしかった」
 そうした実感が自信につながり、これからの学習や生活にきっと役立つと思っています。
 こうして数々の感動を残し盛会のうちに挙行できたのも、ご来賓の皆様をはじめ、保護者の皆様、地域の皆様の温かいご理解とご協力がいただけたお陰です。また、PTAやボランティアの皆様方にも本当にいろいろとお世話になりましたことを改めて御礼申し上げます。
  「練習」ということばを聞くと、いつも思い出す話があります。
1988年、韓国ソウルでオリンピックがありました。公開競技の野球の決勝戦をテレビで観ていました。アメリカチームのジム・アボットという投手が実に感動的なプレーをしたのが印象深く今でもはっきりと思い出されます。
 彼は、右手の手首から先がないのです。グローブを右手首にかぶせておいて左手で投球、すぐにその左手にグローブをつけてボールを受ける。この一連の動作はなめらかで非常に素早い動きでした。また、投手強襲のヒット性の打球にも体ごと飛びつき左手のグローブで捕球すると、グローブを外して地面に落とし、倒れたまま一塁に送球して間一髪アウト。気迫のあふれたファインプレーを見せてくれました。
 翌年、大リーグのエンジェルスにドラフト1位で入団し、最初の年に12勝、次の年にも10勝をあげました。大きなハンディキャップを克服し、大リーグの選手として活躍したのです。そのかげには、誰にも分からない血のにじむような練習があったことは想像にかたくありません。
  来る日も来る日も練習を重ねることは決して楽なことではありません。彼の練習は肉体を鍛え、精神も鍛え上げました。運動会の練習は友達と一緒にやり遂げた成就感、優勝めざしてがんばった友達との一体感を味わうことができることではないでしょうか。運動会で味わったこの経験と自信を、これからの自分の目標が実現するように是非生かしてほしいと思います。そして、クラスや学年が一体となって楽しく学習し、友達と一層仲良くなってほしいと願っています。
 
   7月
夏休みを迎えるにあたって
校長 野口芳夫
 梅雨の真っ只中、蒸し暑い日々が続いていますが、いよいよ夏休みを迎える月となりました。
 さて、従来までは一学期のまとめということで、夏休み前の終業式に「あゆみ」をお渡ししてまいりました。これにより、4月からの学習や生活の様子などをお伝えすることができました。
 しかし、学校二学期制になってから10月第一週までが前期となったため、夏休み前の様子が十分に伝えられない、あるいはよく分からないという声が学校も保護者も双方にあったわけです。
 そこで、この4ヶ月間の様子については、何らかの形で連絡する必要があるのではないかと考え、昨年度より「振り返りカード」を作成することにしました。
 これは、子ども自身が学習や生活などについて自己評価し、担任のコメントを記した内容になっています。しかし、学年によっては自分では文章表記が十分にできないことも考えられますので、特に低学年においては予め評価項目を設定したものに、自身が十分できたのか、あるいは、もう少しだったのかを判断してもらうやり方にしました。
 また、予定されています三者面談では、このカードを使って面談を進めてまいります。その際カードに書かれていること以外にも担任とよく話し合ってほしいと思います。面談でしっかり確認したいことは、夏休み期間中も規則正しい生活や学習が継続していくことの大切さをしっかりと理解していただくことだと思っています。そこで、今年度より繰り返し学習指導を中心に「サマースクール」を開催することにしました。学習の支援を中心に個別対応をしていきたいと思います。
 また、開催期間中、面談では十分話し合いが深められなかった事項については「教育相談日」を設けました。この場合は担任との面談にこだわらず、必要に応じ管理職をはじめ専科教員や同学年の教師など、誰とでも面談したい相手と話し合いの場をもてたらと思っています。この機会を通して個に応じた学びの意味を共有し、わかる喜び・知る喜び・体験する喜びを分かち合いたいと思っています。
 さらに、生活のリズムを整えるため一定期間、ラジオ体操を実施することになりました。これは地域の方の協力を得ての取り組みとなりますので、是非参加するよう声をかけてください。
 最後になりましたが、子どもたちの安全・安心にかかわることは地域ぐるみの取り組みが欠かせない状況は今も変わりません。今月から全保護者によるパトロール活動が始まります。登下校の安全指導とともに危険箇所のチェック等もしていただけるとありがたいです。しかし、何といっても子どもたちと毎日あいさつを交わすなかで、互いに顔をおぼえ親しくなれる喜びが大きいと思います。それが大きな抑止力となり地域の防犯や安全につながっていくものと信じています。
 よろしくご理解・ご協力をお願いします。
  
   9月
実りの秋に向かってGO!
校長 野口芳夫
 今夏は猛暑の連続でしたが、ようやく朝夕が涼しく感じられるようにな ってきました。お陰様で子どもたちは元気で過ごすことができました。耳を澄ますとコオロギ等の虫の鳴き声が聞こえてきます。

    秋きぬと 目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる
                                          [藤原敏行  古今集]

 さて、この厳しい暑さの中ではありましたが、子どもたちは様々な活動に挑戦し活躍しました。
 まずはサマースクールへの参加です。学習の復習、水泳教室、パソコン教室等に全児童の半数以上が7日間にわたりがんばりました。また、特別音楽クラブの児童は地域の夏祭りに招かれ、練習の成果を発揮することができました。さらに、区水泳記録会や市水泳大会に参加し素晴らしい結果を残すことができました。ラジオ体操では、一日も休まずにがんばった児童がいると地域の方から連絡がありました。
 長かった夏休みが終わり、今日から再び子どもたちの元気な声が飛び交う学校生活が始まります。まずは学校の生活リズムを取り戻し、体調を整えることです。しばらくはご家庭でも登校時や帰宅後の健康観察をしっかりやっていただき、学校モードに切り替えていくことを最優先してほしいと思います。宜しくご協力をお願いします。
 いよいよ9月、厳しい残暑がまだまだ続くと思いますが、実り多い秋、前期のまとめの秋です。 是非、心も体も充実した学校生活ができるよう新たな気持ちで出発しましょう!
  10月
「プラス言葉」でエネルギーを高める
校長 野口芳夫
 朝晩の涼しさに、本格的な秋の訪れを感じます。
さて、前期の終了も近づき今年度も半年が過ぎました。お子さんの四月からの成長を振り返ってみるのも意味のあることだと思います。新しい学年になって、お子さんはどんな点が伸びてきましたか。また、これまでのお子さんとの会話を思い起こしてみてください。お子さんには日頃からどのような言葉かけをされていますか?

 あるとき、前の職場で先輩の女性教師から次のような話を聞きました。
 「私ね、自分の子どもに毎日聞くのよ。今日はどんな楽しいことがあったの?って。」
 私はこれを聞いて
「毎日、楽しいことばかり続くわけはないでしょ。お子さんも困るときがあるでしょう。」
と返しました。
 「小さいときから毎日、毎日、同じように聞いてきたし、どんな些細なことでも、子どもが楽しかっ たと言ったことは一緒に喜んできたのよ。だから、子どもは毎日楽しい話をしてくれるわ。」
と、幸せいっぱいの表情で、先輩教師は語りました。
  言葉には「プラス言葉」と「マイナス言葉」があります。エネルギーを高めてくれる言葉とエネルギーをダウンさせてしまう言葉です。
 この先輩女性教師が毎日お子さんに発した言葉は「プラス言葉」です。毎日続けることは難しいことではありますが、その言葉掛けのおかげで、お子さんにはきっと物事をできるだけプラスにとらえ、自分のエネルギーを高めようとする気持ちを養ったのだと思います。
 水が三分の一入ったコップを見て、「水が三分の一も入っている」と言えますし、「水が三分の一しか(●●)入っていない」とも言えます。その場の状況もあると思いますが、「も」と「しか」の微妙な違いが相手を元気にさせたり、がっかりさせたりする大切なポイントになってくるかと思います。自分が発した言葉は今どう相手に受け止められたのか、日頃の会話を思い出してみてください。いつも「マイナス言葉」を耳にする環境では、お子さんはどう感じているでしょうか。
 これまでの接し方で「マイナス言葉」ばかりを言っておられる方はありませんか。お子さんの成長を止めているのは、あなたの言葉かも知れません。今日こそ「新しい学年になって、あなたはこんなところが成長したね。友達がたくさんふえて、毎日元気に過ごせるようになったね」と「プラス言葉」を発してみてください。
  11月
「江戸しぐさ」で豊かな心を育む
校長 野口芳夫
 最近読んだ本で、越川禮子著『身につけよう 江戸しぐさ』を参考にしてお話します。
  「江戸しぐさ」とは、江戸時代、江戸の町に住む人々が、共によりよく生きるために、共同生活を通して身につけた、「人として恥ずかしくない心構え」のことです。
 「江戸しぐさ」の「しぐさ」は、一般的には「仕草」と書くのでしょうが、「思草」とも書きます。「思」は思案、思慮の思、「草」は、行為、行動、実行などの行いを意味します。では、「江戸しぐさ」の代表的なものを著作から挙げてみると次のようなものがありました。
  ○傘かしげ     代表的な「江戸しぐさ」で、雨の日に、相手も自分もお互いが濡れないように、傘を人のいない外側にすっと傾けてすれ違うしぐさです。
  ○こぶし腰浮かせ  後から乗ってきた客のために、こぶし分だけ腰を浮かせて席を詰めることです。
  ○肩引き      すれ違う際に右肩、右腕を後ろへ引いて互いにぶつからないようにするしぐさです。
  ○うかつあやまり  足を踏まれたとき、踏んだ方はもちろん謝り、踏まれた方も「うかつでした」と謝れば角が立ちません。トラブルを避ける知恵です。
 その他、「ご苦労様でございます」「お疲れ様です」などの「ねぎらいしぐさ」、道路を譲り合う「七三歩き」、さらに、「威張らない」「自慢しない」「けんかはしない」「すみません、と心から詫びる」「ありがとう、という感謝のことば」「ごめんなさい、と潔く謝る」「お互い様です、と言う謙虚な心」「時間を守る」「おせっかいはしない」等等、たくさんあります。
 このように、「江戸しぐさ」は含蓄に富んでおり、現代社会でも気持ちよく毎日を過ごすために十分に考慮に値する言動です。学校では、子どもたちに思いやりの心や感謝の心、規範意識などの豊かな心を育むための指導として普段の授業のほかにも「道徳の時間」や「特別活動の時間」などがあります。
 この「江戸しぐさ」については、これらの時間を通して態度化させていけるように、これからも指導を充実させていきたいと思います。
 ご家庭においても、この「江戸しぐさ」を活用して、心の教育を進めることができると思います。お子さんに対しては「こうしなさい」「ああしなさい」と、言葉でいうより、親が「江戸しぐさ」を実践し、後姿で示していくことが大切なのではないでしょうか。
 12月
プレゼントの意味を
校長 野口芳夫
街ではクリスマスのイルミネーションがきらめく季節となりました。
             絵本作家・五味太郎さんの本の中に書いてあることです。五味さんはクリスマスが近づいてきたので、五歳になる息子さんに「プレゼント、何がいいかな」と尋ねたそうです。そうしたら、息子さんがこんなふうに答えたというのです。
「あのさ、クリスマスって、ぼくの何?」
 子どもが小さい頃、親としての自分自身もそうだったなあと反省しました。商業主義に染められた年中行事のあり方を見つめ直さねばと感じさせられたのです。消費することのみに振り回されるのではなく、行事や催しにどんな意味があるのか折々に話してやることも、子どもたちが「世の中」を知るいい手がかりになっていくのではないでしょうか。

 さて、数年前その年の賞を総なめした映画『ALWAYS 三丁目の夕日』をご覧になった方は多いことでしょう。あの映画にもクリスマスにまつわるいいシーンがありました。主人公の芥川と同居する淳之介という少年に、万年筆がプレゼントされるところです。不幸な生い立ちに育った淳之介の笑顔がなんとも言われません。芥川に依頼されたサンタの恰好をした医師が役目を終え、居酒屋で「今日は楽しかった」とつぶやく場面にも心打たれます。空襲で妻子を亡くした医師にとって、誰かに夢を与えることこそ喜びだったのでしょう。それは芥川にしても同じであり、愛情を注ぐ喜びに目覚めた彼がそこにいました。

 考えてみればクリスマスであれ正月であれ、「プレゼント」はもらえる方の喜びだけでなく、与える方の喜びがあって成り立つものだなあと改めて感じます。人はそうした場を常に求めており、それがさまざまの活動を生み出し、経済にも大きく影響を与えているのでしょう。

 ところで、現在の世の中ではモノやお金のやり取りのみが拡大化し、しかも形式化してしまいがちで、肝心の心の部分が見えにくくなっていると言えるのではないでしょうか。
 英語のPresentには「贈り物」の他に、「心に残る」という意味もあるようです。モノやお金ではなく、本当に子どもたちにとって心に残ることを、今年一年の間にプレゼントできただろうか、そんなふうに振り返る時間を持てたらいいなあと思います。些細なことであってもそんなプレゼントが見つかれば、それはきっと来る年への希望につながっていくはずです。
 
 1月
「よく見る、よく聞く」習慣を
校長 野口芳夫
 一月は正月とか睦月などと言われます。睦月は陰暦正月の異称で、年のはじめに家族や多くの人々が互いに仲良く親しみむつみ合うことから「むつびつき」と言われたことが由来だそうです。正月は家族で過ごしたり親戚の家を訪問したりする習慣がありますが、皆様のご家庭ではいかがでしたでしょうか。
  さて、ある時期、成人式の会場で人の話を聞かずに隣の人と話をしていたり、勝手なことをしていたりする若者が多いということが全国的な話題となりました。この傾向は本校でも全くないわけではなく、じっと集中して人の話を聞けない子が若干見受けられます。

 子どもたちのけがや交通事故の原因を考えてみますと、遊びに夢中になったり、周りの安全を確かめなかったりして起きたけがや事故が少なくありません。また、授業中黒板に書かれていることや準備された学習資料をよく見ない子もいます。そんな子どもたちは、概して知識の定着度がよくない傾向があります。

 このような現状を踏まえ、本校では子どもたちに人の話を「よく聞き」、授業で使用する学習資料や自分の身の回りのものなどを「よく見る」という習慣を身に付けさせる努力をしています。先生方も、子どもたちがしっかり聞くことができるように工夫して話をしたり、子どもたちがよく見えるように工夫して資料を提示しています。私も朝会などで話をする場合は、子どもたちの聴覚や視覚に訴えるように意識して、話の内容に関連するものや文字などを見せたり、間の取り方や抑揚に留意したりして、話をするように心がけています。それは、子どもたちが「よく見る、よく聞く」ことによって、知識量が自然と増えるからです。

 話をよく聞くということは、相手の人間性を認めることであり、その人が持っている良さを多く吸収できることにもなります。自然や自分の周りのものをよく見ていると、いろいろな気づき(発見)があります。また、他人の行動をよく見ることは、自分の行動を見つめ直すよい機会にもなります。
 以前「ノーベル賞受賞者には、実験の小さな変化を見逃さない姿勢と観察眼があった」「松下幸之助(松下電器の創始者)は、大きな耳で人の話を聞く名人であった」などの記事を読んだことがあります。このように、「よく見る、よく聞く」習慣が身につけば、子どもたちは一人学びができるようになり、日々自分の力で成長していくことができると思います。
 我々大人は進んで人に挨拶をする、子どもたちの話をよく聞くなど言動の良き手本を示したり、一緒に自然観察をする中で「なぜ」という問いかけをしたりして、「よく見る、よく聞く」習慣を身に付けさせていきましょう。

 最後になりましたが、皆様にとりまして本年もよい年でありますようにご祈念申し上げます。そして、今年も引き続き子どもたちの安全・安心を守るため、学校・家庭・地域が連携し地域ぐるみで取り組んでいきたいと思います。どうぞよろしくご理解・ご協力をお願い致します。
 2月
春をむかえる準備。。。
副校長  富岡 正雄
 平成19年度もあと2ヶ月ほどになりました。保護者・地域の皆さまには、日頃より本校の教育活動に、ご理解とご協力をいただきましてありがとうございます。また、1月25日(金)の「PSY学校公開」は、保護者・地域の方のご協力をいただいて無事に終了することができました。
 さて、2月の学校は、学校評価・年度末反省・次年度の計画等で、あわただしい時期になってきますが、来るべき春が真に明るい・あたたかいものになるように、しっかりと足元を固めていきたいと思います。

           君たちの笑み もっと多く! もっと近くに!
                                                           作 富岡 正雄

ひとつ、またひとつ、つぼみが生まれる
ひとつ、またひとつ、つぼみがふくらんでいく
冷たい風、寒い日の中で・・・
どんな小さなつぼみでも
その冬を越えるために、精一杯の力で・・・

その成長を見守り、応援するために
どれだけの拍手が送れるのかな
どれだけの笑みで包めるのかな

笑みが語り出す
笑みの輪がひろがる
笑みが多くなり、近くになる

そして、春には
そのつぼみが花になり
君たちも大きな花になる

そんな春をゆめみて
君たちの笑み もっと多く! もっと近くに!

                                         笑顔という名の翼をひろげていきたいものです。
 3月
説話に学ぶ
校長 野口芳夫 
 仕事柄「教育とは何か」と問われることがあります。そのとき私は決まって「自己実現を助長する営み」と場に応じた表現で答えるようにしています。つまり、教育とは、子ども本来が持っている資質に働きかけ、これを効果的に伸ばすことだと思っています。この働きかけを「培う」と言い、文字通り、植物の種に土をかけることを言うわけです。種の中には生長するためのエネルギーが内包されています。それに土をかぶせ、陽を当て、水をやることが育てるということです。さしずめ、太陽はご両親でしょうか。
 この働きかけを家庭と学校が一体となって行うことにより、相互作用で子どもたちはぐんぐん伸びていきます。

 昨年の秋、檀家となっている私の家に住職が来られた折に、薄い冊子を置いていかれました。何となくページをめくっているとこんな説話が目にとまりました。
「仏様がある日、道ばたに立っていらっしゃると、一人の男が荷物をいっぱいに積んだ車を引いて通りかかった。そこは、大変なぬかるみであった。車はそのぬかるみにはまってしまい、男は懸命に引くけれども車は少しも動こうとしない。男は汗びっしょりになって苦しんでいる。いつまでたっても、どうしても車は抜けない。そのとき、仏様はしばらく男の様子を見ていらっしゃいましたが、ちょっと指でその車におふれになった。その瞬間、車はすっとぬかるみから抜けて、からからと男は車を引いていってしまった」と、こんな話だったと思います。

この説話で、男は御仏の指の力にあずかったことを永遠に知らないで、自分で努力して、ついには引くことができたという自信と喜びで、その車を引いていったのです。もしも、その仏様のお力によってその車を動かすことができたと知ったら、男は仏様にひざまずいて感謝したことでしょう。けれども、それでは男の「生きていく力・生き抜く力」は、何分の一かに減ったことでしょう。お力によって、そこを抜けることができたという喜びはあります。それも幸福な思いではありますが、生涯一人で生きていくときの自信に満ちた真の強さには遥かに及ばなかっただろうと思います。
成長は自分で成し遂げた喜びによって大きく確かなものになります。その喜びが新たな挑戦や欲求を生み、さらなる伸びへと留まるところを知りません。この男はその努力の姿が仏様の目にとまり、御仏のお力にあずかることができました。親は家庭を、教師は授業を大切にしながら、子どもたちが本来持っている向上心や努力を認め、これを尊び、ほんの少し後押しをするだけでよいのかも知れません。

3月は一年間のまとめの時期です。親や教師はそれぞれの立場で、どんなに小さなことでもがんばったことを確かめ合い、心身ともに健康で過ごし成長できたことを喜び合いたいと思います。その充実感・満足感が次の大きな飛躍に繋がるものと信じています。
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