人間の発達において重要な役割を担う食
《味覚の発達から人間らしい情操の発達へ》
                          校長 小椋 つや子

   食べなければ生きられないという食の営みは、ただたんに空腹を満たし生命のつなぎとしてとらえるか、人間の豊かさ、人生観までつくる重要な営みとしてとらえるかによって、人の根の育ちかたは異なります。つまり、食事は、人間が人間として育つ根、それを育てる土なのです。

 産声をあげて生まれた赤ちゃんの味蕾は、舌だけでなく歯ぐき、舌の下面、頬の内面、唇、口蓋弓、食道などまで広がり、口の中全部が舌の役割をしています。しかし、離乳期の流動食から固形物に変化をし、味付けもだんだん濃くなってくるにしたがって、舌を動かす、歯で噛むという動作が必要になってくると、舌、頬の内面、舌の下面を残して味蕾はだんだん消えてゆきます。これが幼児といわれる時期です。その年齢が終わり、6〜7歳ごろ味覚は大人への発達の仲間入りをします。この発達は、精神的発達とからんで育ってゆきます。味を感ずるというのは、水溶液による味覚神経への刺激が、「甘、酸、塩、苦」を感ずる受容器である舌の表面の大小さまざまな溝に存在する味蕾に届くということです。この味細胞に味覚神経の末端がきており、非常に小さい物質が水に溶けた状態で味蕾に届くと、その刺激が神経を伝わって味覚中枢に送られ、はじめて飲食物の味を感じます。このことだけでも分かるように、いろいろの味を感じさせ、好きにさせていくということは、脳神経を活発化させ、それらの刺激に耐えることのできる脳神経の発達を促しますから、食は人間として生きるうえで重要です。

 この一人前の社会人になるための基礎となる一番大切な小学生時代の味覚の発達を学校給食における子どもたちの感想からみてみたいと思います。

 1〜2年生:「コーンシチューはあたたかくておいしかった」「五目豆がこうばしくておいしかった」「肉の味がとてもよかった」など、舌の感覚器に直接感ずる単純な感じ方をしているということが分かります。このように一見単純なようにみうけられる感じ方ではあっても「あたたかく、こうばしく、あじが」と、ちょっと舌からはなれた感じ方は人間的感覚であり、感情へと意識化してゆくことによって情操へまで発達させていくことができます。

 3年生:1〜2年生とはやや感じ方が違ってきます。「今日の野菜は味がちょうどよかった」「焼きそばはおいしかった。もう少し青海苔が少ないともっとおいしい」というように、「野菜、青海苔」というその持ち味を自分の舌で味わい確かめながら自分の意思で表現し始めるのです。そして、今食べたその味にやや距離をおいて「味がちょうどよい、青海苔を少なくすれば」という過去の味やいい味を想像して味わえる能力も育ってきています。つまり。1〜2年生よりも舌に感ずる直接的なものだけでなく、「うまさ」として味わえる感覚機能の分化のきざしがうかがえ、食において自分というものをもちはじめていることが分かります。

 4年生:食べるという行為から次元のちがう世界をひらきはじめます。「もうすぐ冬、あたたかいものがおいしくなりそう」「あたたかかった五目豆も、いただきますをするころはもうさめていました。でもおいしかったのですぐ食べてしまいました。家でもああいうような五目豆が作れるのですか。教えてください」「カレーライスのときには牛乳は合わないのであまり出さないでください」と味のみでなく、「冬はあたたかいものがあう」という触覚からの想像とつながった季節の意識、「ごはんには牛乳はあわない」というような、食形態・食習慣から感じ取れるうま味、「家でもこの味は作れるか」とおいしい味を再現し舌に残してゆきたいという感じ方、これは感覚機能の分化を前提とした「うま味」を感じうる文化的食欲への発達を意味しています。

 5〜6年生=うま味の味わい方、食事の感じ方、とらえかたが大きく変わってきます。「肉じゃががあまみがでていてとてもおいしかった」「ツナサラダのドレッシングの加減がよかった」「いろいろな風味がまじってとてもおいしかった」というようになかにかくれた風味としての味、食品からでる微妙な甘味、いろいろなものがまじりあってつくりだされるそのうま味など、たんなる味わうではなく、微妙なうま味を味わいながら食べることができます。つまり、「吟味する、味わう」ということができるまでに味覚は発達します。

このように食は、人聞の発達において非常に重要な役割を担っています。日吉台小学校では、今年度食教育の全体像をつくり、給食・教科等を通して食教育を推進していきます。ご家庭でも基本的生活習慣のひとつである「早寝早起き朝ごはん3に取り組み、人間形成の土台となる小学生時代を充実して過ごさせていただくようお願いします。



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