2006年8月28日 横浜市立上山小学校講演会資料
学校の危機〜児童生徒の安全を考える〜
日本女子大学市民安全学研究センター長 清永賢二
 
T.犯罪原論
 犯罪からの安全を考えるには、まず、犯罪とはいかなる現象か、さらに、犯罪からの安全(犯罪防止)をいかに考えるかが検討されねばならない。
 
 こうした問題は複雑に考えてはなりません。複雑に見えるものも、その中心は実に単純なものなのです。事実を整理すること、あれもこれも一挙に手を付けてはなりません。
 
1.犯罪は生活世界の複合汚染である。
2.犯罪との戦いは情報戦である。
3.犯罪は隙間産業である。
4.犯罪には前兆がある。
5.犯罪は相対的なものである。
6.犯罪防止の目標は、犯罪統計数値の低下のみを目指すものであってはならない。人々が体で感じ受け止める   日々の犯罪への不安感、恐怖感そして悪質感の逓減を目指すことがより重要である。
7.犯罪から「絶対的な」安全はない。
8.犯罪は学習行動である。
9.犯罪者の学習の進行に対し、常に被害者の学習は遅れている。
10.犯罪からの安全は「見守りあい(愛)」が最も有効である。
11.見守り愛の基本は、「四戸で一戸」の精神である。
12.犯罪防止における「見守りあい」と「監視」は峻別されねばならない。
13.犯罪は、犯罪者×被害者×環境の組み合わせで起こる。
14.犯罪の抑止には、市民−自治体−警察の三位一体の取り組みが重要である。
15.一度、増加に走った犯罪を止めるのは、極めて困難である。
16.犯罪の増加には、量から質への転換、さらに質から量の転換がある。
17.量から質、質から量への転換時には、必ず、象徴的的事件が存在する。
18.犯罪弱者とは、情報弱者である。
19.犯罪者は、必ず何らかの弱者を狙う。無差別犯罪はありえない。
20・空間秩序の乱れが犯罪者を引き寄せるのではない。無秩序を放置しておく有責感と共同意識の薄弱さが犯罪者を引き寄せるのである。
21.犯罪防止は、徒手空挙−コミュニティ−監獄−防犯の各世界を経て、犯罪管理の時代に入った。
22.犯罪を「絶対ゼロ」にすることはできない。しかし、犯罪を管理することは出来る。
23.犯罪管理の3つの命題。
 @起こしてはならない犯罪は起こさせない。
 A起こってならない場所での犯罪は起こさせない。
 B被害にあってはならない対象は絶対に被害にあわさせない。
 Cこうした「ならない」犯罪が  発生した時には、被害回復あるいは報復のルートを制度化しておく。
24.犯罪管理の4つの補助命題。
 @「犯罪からの安全」の明確な定義。   
 A達成すべき「安全水準」の普段の確認。   
 B犯罪発生に対する科学的な「分析」。最適な安全確保策の検討とその実行後の「評価」。  
 C判事からの安全確保策プログラムに対する市民の間の「合意形成」。  
 D犯罪からの安全確保活動への市民の積極的「参加」。
25.犯罪被害は繰り返される。2ヶ月に一回が周期である。
26.犯罪者の心理は、犠牲者との空間距離によって、様々に変化する。20メートルが犯罪者から見た「コミュニテイ」である。
27.犯罪空間は、空間の管理、形態、利用によって変化する。
28.これと、回避、遮断、威嚇、強化、教育、阻止、隔離、逃走の8種の手段をクロスすることで、犯罪の空間予防論は成立する。
29.犯罪の発生は、量から質、質から量への可逆反応を繰り返す。
30.犯罪防止を空間距離的に見ると、
 @個体距離、
 A対面的な小集団距離、
 Bつきあいとしての近隣距離、
 Cまちとしての社会的距離がある。
31.防犯活動を広報効果の面から見て、
 @被害者の強化を強調する「教育的防犯広報」、
 A被害者への威嚇を強調する「攻撃的防犯広報」に二分できる。
32.犯罪者の嫌うものは、
 @音、
 A光り、
 Bもの(人、物)の3要素である。
33.ものは、また、人工と自然に分けられる。
34.上記三要素で目標とするものは、空間の操作、時間の操作である。
35.空間の操作では、
 @動線性の確定、
 A領域性の確定、
 B監視性(見守りあい)の確定が目指される。
36.動線性の確定は、
 @接近制御(入りにくい) 
 A逃走制御(逃げにくい) 
 B徘徊制御(うろつきにくい)の3つの方法で達成される。
37.動線性の確定の達成を通し、
 @接近制御(入りにくい・近づきにくい・触りにくい)、
 A逃走制御(逃げにくい)、
 B徘徊制御(うろつきにくい)が確保される。
38.安全・安心を目指す新しい犯罪防止の取り組みの本質は、新しい「市民創り」に他ならない。
39.安全確保のための防犯は、
 @個体防犯、
 A施設内防犯(家屋、学校、公園等)、
 B近隣防犯
 C街区内防犯、
 D地区内防犯、
 E自治体内防犯のレベルがある。
40.犯罪の起こり方には、加害者と被害者の関わりから見て、
 @突発型異常事態発生
 Aずり落ち型不均衡事態発生
 B陥没型不均衡事態発生の3タイプがある。
41.上記3タイプの内、重要なのは、Aのずり落ち型不均衡事態発生。即ち、安全・安心が脅かされるというのは、突然生じるのではなく、日常の普遍の世界が何らかの条件が加わることにより「ずるずる」と均衡が壊れ破局的局面が生じてしまう、という考え方。犯罪は、私たちの生活の全面の不均衡が生み出す。
42.犯罪を守る側の空間からいうと、
 @個体強化、
 A近隣強化、
 B街区強化、
    C都市強化のレベルがある。
43.犯罪はどこででも起きる。ただ起きにくくすることは出来る。遭いにくくすることは出来る。
44.犯罪は「まさか、そういえば」の間に起きる。
45.犯罪は「近づきやすく逃げやすい」あるいは「近づきやすいか、逃げやすい」社会と空間で起きる。
46.犯罪者が最終的に犯罪を起こさないピンポイントは「捕まる」とことへの恐れである。
 
U.子どもの安全教育の基本原理
1.子どもの安全教育の目指すもの
(1)安全教育の定義
   子どもは犯罪弱者です。抵抗能力の低い弱者であり、なによりも情報弱者である。この弱い弱者を「教育」によって、犯罪被害の遭遇から前もって回避させ、また不幸にして遭遇した際には安全無事に危機を克服する能力を体得させるのが「子どもの安全教育」であります。
(2)安全教育が目指すもの
   子どもの安全教育は、子どもの安全を確かにするため、4つの目標を設定する必要がある(図1)。
  @体力・行動力の形成
   危機克服のためには、子どもには歩く・走る・跳ぶ・ひねる・潜る・踏ん張る等の体力と行動力が求められる。こうした身体能力を体得させる、あるいは「今、自分がどの程度の能力しかない」ことを自覚させる必要がある。  
  Aおとな力の形成
   子どもからおとなへの変身の中で、子どもは危機を回避する能力を身につけてゆく。おとなとは、自己決定出来る能力、自己責任をとれる能力、様々な選択肢を並べることの出来る能力を身につけた者をいう。子どもの安全教育は、その教育を通し、子どもにこうしたおとなの基礎的要件をしっかり身につけさせ、最終的には子どもからおとなへと変身させて行く教育の一つである。  
  B危機回避のための具体的知恵・知識力の形成
   犯罪からの危機を事前に察知し回避する、あるいは危機の最中に有効にその事態と対峙し克服するためには、そうした行動を支える十分な知恵と知識が必要となる。左記のAは、この具体的知恵や知職お基礎的能力であるのに対し、このBの知恵や知識は「その時、どうする」の知恵や知識である。  
  Cコミュニケーション力の形成
   「嫌なことを嫌という」ことは非常に大切である。しかし、多くの事件においては、何が「嫌なこと」か判断付きにくい曖昧な状況で被害者化している。そうした状況にあっては、どの様なコミュニケーションを交わせばよいのかが問われる。また、その日にあったことを保護者に正確に伝える能力も問われる。こうした「人と話す」力を付けさせることが安全教育には求められる。
   最終的には、こうした4つの教育目標を組み合わせ、図1に見るように、「(危機と)対峙する力」「(危機を)回避する力」「(危機を)伝える力「(危機を)判断する力」の4つが子どもの安全教育の最終目標となる。
図1 子どもの安全教育の目標
 
2.子どもの安全教育で踏まえるべきこと
   子どもに犯罪からの安全を教育する際に予め踏まえておかねばならない基本は、どの子に、どの様なことを教えるかである(図2)。
   子どもは、一人一人異なる。年齢、性そして体格・体力といった基本的なことがまず踏まえられねばならない。
   小学校1年生に小学校6年生と同じことを教えても、十分に体得させることは出来ない。逆に、小学校1年生の時に体得させておかねばならないことがある。また、男子と女子とでは、必然的に教えておかねばならないことの幾つかは異なる。こうした差異を踏まえ、「子どもの安全教育」にも子どもの発達段階に即した教育課題が発達期待(ここまで出来て欲しいという思い)に即して並べられねばならない。
   また、具体的に、安全教育を行なう際には、その危機の違いも踏まえてなされねばならない。連れまわしと強制的誘拐は似ているようで異なる。盗撮と痴漢も似通ったものではあるが注意し防止する手法は異なる。どういった犯罪にどう対応するかが工夫されねばならない。
   さらに、子どもの生活する家庭・学校・地域の差異も籍まえておかねばならない。こどもがしっかりと身につくことのできるいた安全教育の実施には、家庭のしつけ、学校での友達関係、街の作りなどの違いを踏まえた学習方法が求められるのである。
 
図2 安全教育の実施に際し踏まえておくべき事柄

V.「子どもと安全安心」の基本
 
1.子どもにとっての安全安心とは
(1)何よりも失ってはならないものです
   犯罪は、その被害を受けた人の体や財産に傷を負わせるだけでなく、目に見えない心の中になかなか回復するのが難しい傷を負わせてしまいます。特に、幼い子どもには、幼いだけに心の傷は深く回復が困罪な場合が多いのです。
   私たちは、子どもの安全安心を確かなものとすることは「絶対に大切」なものと考えます。
(2)すべての子どもが失う可能性を持ったものです
   犯罪の被害、特に子どもを被害者とする犯罪には例外がありません。犯罪者は、基本的に「弱い者」を狙います。弱い者の代表は子どもです。「うちの子どもは」という考えは通用しません。
   私たちは、子どもを被害者とする犯罪には例外な子どもはいない、と考えます。
(3)すべての子どもが手にすることができるものです
   子どもは、安全安心に将来に向けて大きく羽ばたいて行きます。その道筋で理不尽な被害を受けることは許せません。どうすればよいのか。
   一番大切なことは、子ども、特に幼児から小学校低学年の体力も犯罪者の悪巧みから逃れる知恵も情報も十分に体得していない子どもの安全安心は、その周囲の大人の人がスクラムを組んで「見守る」意外にありません。
   犯罪者の嫌なものは、自分たちの街の子どもは自分たちでしっかり見守るぞ、という地域全体の眼差しです。
   私たちは、みんなで見守るあう限り、子どもは絶対に安全安心に暮らせる、と考えます。
 
2.安全安心から見た子どもとは
(1)子どもは一番の犯罪弱者です
   犯罪からの安全安心を確かなものとするためには、まず自分自身の体力が大切です。また、犯罪から逃れるための知恵を身につけておくこともとても大切です。
   ところが「子ども」は、この2つのポイントのどれも備えていないのです。だから、「子ども」といわれるのです。子どもは一番の「犯罪弱者」です。犯罪者に逆らう力がないから、上手く避ける知恵がないから、ですから犯罪者はまず子どもを狙うのです。
   ですから子どもの周りの地域の方々の暖かい視線と声、心配りといった「見守る力」のスクラムが何よりも大切となってくるのです。
(2)子どもは一人一人違うのです
   子どもたちは自分自身の力で安全安心に暮らして行く力と知恵を体得せねばなりません。 大切なことは、子どもといっても、一人一人に大きな違いがあるということです。それは、子どもたちの年齢の違い、男子女子という性の違い、そして育ってきた環境の違いが作用しています。私たちは、この違いを踏まえて子どもの安全安心に向き合わねばなりません  (図1)。図で言えば、年齢と性差そして環境の3本の軸で囲まれた一つ一つの箱毎に子どもの安全安心を考えなければならないと言うことです。
(3)子どもの安全安心の体得には順番があります
   たとえば、年齢だけを取り上げても、子ども自身が自分の安全安心を確かにすることができる大人になるためには、年齢を追って順に身につけておかねばなりません(表1)。順番を飛び越えても、あるいは順番を遅らせても、本当に身に付いたものにはなりにくいのです。身につけさせる時には身につけさせる努力が必要です。
   また、こうした順番は、性差がはっきり表に出てくる小学生の高学年から中学生に向けて、男子別あるいは女性別に考えられねばならないでしょう。
(4)特に、幼い時から安全安心を体得させておくことが大切です
   犯罪からの安全安心は、体に染みついた者であることが大切です。その意味で、「他の人」を意識する幼いころから体で力一杯記憶させることがとても大切です。長崎ではありませんが、ある小学校で女子児童が、幼稚園で教わった「変な人が抱きついてきたら、思いっきり足の甲を頼みつける」ということが自然に出て助かった、という例があります。
   ともかく、小学生になったら「安全安心」の力と知恵を身につけさせようと言う前に、その前の幼稚園や保育園で「安全安心な暮らし」のための力と知恵の「基礎体力」を身につけさせておく必要があるのです。
 
V.安全安心の基礎体力を子どもに身につけさせる
 
1.全体的動き

・自立する
・人のために何かをする
 
・助け合う
・危険を回避する
 
 
・ご挨拶が出来る
 
・人を信頼する/愛する
 2.これだけは「この時に」身につけておこう!!!
           子どもの安全教育カリキュラム
 3.具体的に身につけること
    @避ける
    A叫ぶ
    B引く・鳴らす
    C走る
    D知らせる
 
参考資料〜子どもの危機の現状〜
     未就学児・小学生の刑法犯被害件数
            図表4−11−(2)−3 就学別の犯罪被害件数(平成17年)
  注1:「人口当」は、人口10万人当たりの認知件数である。
  注2:人口は、総務省統計局の推定人口(平成16年10月1日現在)による。
  注3:「未就学」は、総務省統計局の推定人口(平成16年10月1日現在)の0〜5歳を計上した。
  注4:「小学生」と「中学生」の人口は、文部科学省学校基本調査(平成16年版)による。
 
表1 過去2年間における子どもたちのハット・ヒヤッと体験の有無 (2005年中)
  過去2年間における子どもたちのハット・
ヒヤッと体験の有無
合計
体験有り 体験なし 無回答  
  小学校 度数 44 177 0 221
19.9% 80.1% .0% 100.0%
中学校 度数 34 82 0 116
29.3% 70.7% .0% 100.0%
幼稚園 度数 10 127 2 139
7.2% 91.4% 1.4% 100.0%
合計 度数 88 386 2 476
18.5% 81.1% .4% 100.0%

Copyright(C)2006 Kamiyama Elementary School.