霧 一 小 だ よ り
                                       平成16年 7月号

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食 わ ず ぎ ら い

学校長  谷川  克

 梅雨の合間の放課後のことです。帰ったはずの子どもたち数人が学年の畑に群がって何かを探しています。「どうしたの。もう帰らなくっちゃ。」と声をかけると「校長先生見て!一杯すごいでしょ。」といって見せてくれたのは今年とれたばかりの新ジャガです。一人ひとりとてもうれしそうに畑の隅に置いていたジャガイモを手いっぱいに持ち寄って来て誇らしげに見せてくれました。このジャガイモは先日6年生が収穫を終えて掘り起こした畑に少しずつ残っていたものですが、小ぶりのものからビー玉よりは少し大きめのものまでそれぞれです。まるで宝探しのように次々と土の中から見つけ出す子どもたちの様子についつい引き込まれ、下校の時刻を告げに言ったのを忘れてしまったぐらいです。その後、かわいい新ジャガは、子どもたちの手作りのお料理として家庭の食卓にあがったようですが、その日の子どもたちの笑顔と楽しい会話を聞き、私自身とても爽やかな気持ちになりました。

 先日学校説明会でもお伝えしましたが、本校では、本年度の重点的な取り組みとして〃子どもの思いや願いを大切にし、主体的に活動をする場を保証する〃という目標を掲げました。特に生活科と総合的な学習の時間では、恵まれたスペースを生かした畑の野菜や穀物作りを学校の特色としています。3組、4組では、今年はトウモロコシ作りに力を入れています。1年生は、サツマイモ、2年生は思い思いの野菜作り(キュウリ、トマト、ミニトマト、トウモロコシ、エダマメ、ピーマン…)3年生はオクラ、4年生はゴーヤ、5年生はイネとインゲン、トウモロコシ、ダイズ、6年生はジャガイモとイネ(赤米)というようにそれぞれの野菜や穀物を育てています。

 毎朝見られる風景ですが、教室に行く前に、カバンを背負ったまま何人もの子が畑に集まって来て観察したり水やりをしたりしています。野菜に優しく声をかけている子。「いい子。いい子。」となでなでしている子と様々ですが、よく見ていると子どもたちの野菜に対する姿勢が変わっていっていることに気が付きます。最初は世話というかかわりからスタートしているのですが、日を重ねるごとに大きくなってくる自分の野菜に喜びを感じ限りない愛着をもつようになってきます。手をかければ、かけるだけ応えてくれる野菜たち。その野菜に対して一生懸命働きかけていくうちに子どもたちと野菜の距離はどんどん近づいていきます。

最近偏食がひどいため、イライラしていたり怒りっぽくなったりしている子の話題や朝食抜きで登校してくる子が増えているという新聞記事を目にすることがあります。

朝食抜きは別にしても確かに偏食についての野菜の割合は少なくないようです。しかし、本当に子どもは、野菜が食べられないのでしょうか。どうもそうではないという事例を紹介します。トマトやピーマンが嫌いだった子が、2年生になって育ててみることになった時のことです。毎日世話をして育てたトマトを口に入れた途端「これ甘い。おいしい。」と歓声をあげたことがあります。同じようにピーマンも焼いてお醤油をかけたら、口にすることができたという話があります。これは食わず嫌いということもありますし、新鮮な取り立て野菜の独特な甘みの効果や料理の工夫によるところも大きいと思われますが、何よりも大きい効果は自分が手をかけ愛情をもって育てたという働きかけの効果からくるものではないかと思います。

食塩を除き、口にするほとんどの食べ物は、生き物から作られたものです。そして、私たちはその生き物の命を頂き成長し健康を維持できるのであるということを聞きます。命の有り難さを強制するのはよくありませんが、生き物を育てる活動を続ける中で命の尊さや自然からの恵みについて気付かせていくのは、私たち大人の役目ではないかと考えます。

子どもたちが、今年も栽培活動を通して自然の恩恵や生命の大切さ、食についてより一層、思いを馳せてくれたらと願っています。