障害児学級における情報教育の実践
「メール学習を通してのコミュニケーション」
 
横浜市立本郷中学校 教諭 白川 仁美
 
1.はじめに
 本校は、鎌倉市に接する横浜市でも一番南部にある生徒数612名大規模の学校です。
ITの活用は、障害に基づく種々の困難を改善・克服し学習を支援する手段として必要であると考えます。さらに,コミュニケーションの補助手段等として,障害のある子どもの可能性をさらに広げ,社会へより積極的な参加・自立を実現していく上で,極めて高い意義があります。 本校では、14度の教育課程の改訂を機に障害児学級(横浜市では、個別支援学級と呼ぶ)において情報教育を実施しています。最近は、障害者といえども健常者と同様にパソコンを使えないと就職先がないという現状があります。大学進学がほとんど考慮することができず、将来の就職先を考える上でも就職先の選択幅を広げる為にもまた、好条件の就職先をめざすためにも必要であるという現実があります。
 情報化時代をむかえ、コミュニケーションの補助手段として電話をかけられるようになることと同様に携帯電話やパソコンを使ってメールを活用できるようになることは必要であると考えました。そこで、情報教育の題材として14年度からメール学習を取り入れた授業実践をしています。
 
2.研究のねらい
2.1メール学習のねらい
 障害のある子どもの障害に基づく種々の困難の改善・克服と,社会とのコミュニケーションの拡大を目指すことをねらいとしました。具体的には、メールの送受信の実践を通して、文章作成能力や表現力を伸ばすとともに、コミュニケーション能力を高めることを主なねらいとしました。

主なねらい
@ コンピュータ活用能力の向上
A コミュニケーション能力の向上
B 表現力の向上
C 文章作成能力の向上
D 漢字(読み書き)学力の向上
E メール(手紙)の書き方やきまりについての学習
F ローマ字学習
 

3.研究の経緯
3.1取り組み
 本校の障害児学級には、1年生6名、2年生3名、3年生2名の計11名の生徒が在籍しています。様々な障害を持った生徒がいます。
 生徒本人はもちろんのこと、保護者、区内の障害児学級の教師と生徒、交流のある市内の学校にメールアドレスの一覧表を配布しました。
 昨年の計画初期に置いては、対象生徒のレベル差が大きく一般に使用されているメールソフトでは、文章作成や送受信が困難でした。そこで、ワープロソフトで文章を書かせ、教師が保存し、一般のメールソフトで送信することも試みましたが、生徒全員に対応することができませんでした。そこで、富士通株式会社の教育文化ソリューション部の協力のもと高齢者・障害者用に開発されたメールソフト「らくらくメール」を使うことにより障害児学級のすべての生徒を対象に指導することができました。
 今回のメール学習は、「らくらくメール」というソフトウェアがあったので生徒対象に実践できました。今年度は、最初からこのメールソフトを使用した授業実践をすることを前提として学習計画を立てました。
 
3.2利用メールソフトの特徴
 「らくらくメール」の特徴は、メールアドレスをキー入力するだけでなくアドレス帳から写真入りの送信相手を選んだりすることによりアドレスの入力ができたりもします。また、レベルに応じて難しい漢字にルビをふってくれたり、メール文章を読み上げてくれたり、障害の程度により細かな設定ができます。また、送信文章に3段階の喜怒哀楽をつけて作成するなどもできます。もちろん同じソフトを使用していないと喜怒哀楽をつけた読み上げはできません。「らくらくメール」は、キー入力が充分にできない生徒でも簡単にメールの送信・受信ができるよう工夫されています。知的障害や肢体不自由のある方にも、電子メールを利用できるようにするためにいくつかの入力補助機能などを備えているなど幅広く障害のレベルに応じた設定ができます。
 生徒にとっていたれり尽くせりの機能がついています。さらに使いやすいように改良され、現在は、「らくらくブラウザ」という商品名で販売されています。(なお、「らくらくブラウザ」の紹介は以下のホームページにアクセスしてください。)
 http://pr.fujitsu.com/jp/news/2003/08/21-1.html
 
 
 
 
 
 
 
 
 


上の図のように絵を含めメール内容を選ぶような設定もできるのでキー入力が十分にできない生徒にも対応できます。ソフトウェアキーボードもついており、メールの指示も平仮名や片仮名で書かれおり使用することもできます。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



       授業の様子1                                 授業の様子2
3.3利用環境
@パソコンの環境
 本校の環境は、学校インターネットVで光ファイバーで接続されています。また、今回の実践のため教育委員会に障害児学級の生徒と担当職員にメールアドレスを申請し得られました。 パソコン室には、光ファイバーで接続された45台のノートパソコンと1台のデスクトップパソコンが設置されています。また、障害児学級にも5台のパソコンがあるがインターネット接続が現在されていません。今回の実践は、パソコン室で行いました。
 パソコン室のパソコンは、IMB製でOSがWindows98SEが42台で、その他にはWindowsMEが2台とWindowsXPが3台です。コンピュータの台数が大規模校にもかかわらず少ないです。コンピュータの利用環境が整うことにより、より一層目標の達成率が高まると思われます。
Aコンピュータ室利用環境
 本校のコンピュータ室は、インターネットが光ファイバー接続されているのでいろいろな教科や総合的な学習、調べ学習で使用していることが多く使用頻度が非常に高いです。
 本校のコンピュータは、5年間使用することになっているが最近キーが取れるものも出てきています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 昨年の区内の研究授業時の様子

4.研究内容
4.1指導計画・準備
 昨年はコンピュータ室の空状況を見ながら時間設定をしていたが今年度は隔週で火曜日の2時間目に設定しました。年間16時間の計画を立て実施しています。
 最初は、クラス内の友達同士でメール出し合い、それに返事を書かせるようにしました。 配慮したことは、文章作成だけで終わることのないように短い文章で発信させ、返信をさせるようにしました。今回は、11人の生徒をレベルに応じて3つのグループに分けて3人の教師が担当し実施しました。
@ キー入力(ローマ字入力)がスムーズにでき、送信相手や自分のメールアドレスを打て、送信内容も自分で考えられる生徒(3名)。
A メールソフトの使用方法や送信文章を考えるのに補助を必要とする生徒(4名)。
B 入力(ひらがな入力)に時間がかかりアドレス帳から送信相手を選びサンプル文章を考えるのに補助を必要とする生徒(4名)。
 メールの送受信には、保護者や近くの学校の先生方や生徒の協力を得て行うことができました。将来的には、生徒の負担にならない程度のもっと多くの学校と交流を考えています。初期段階として受信したメールに返事が出せる程度を考えています。
・学習計画
時間 学 習 内 容

2〜3
4〜5


8〜9
10〜14

15〜16
コンピュータ室の使用ルールとコンピュータの使用方法
キー入力の方法(例文を入力)
文章作成・メールの書き方のきまりについての学習
題名の付け方・アドレスの書き方
メールの送信(クラス内)
メールの受信・送信の方法(クラス内)
メールの受信・返信の方法(父母
や他の学校の友人への返信)
メールの受信・送信・返信
 
4.2指導内容
 最初にメールの形式について指導する。
@メールアドレスの記入。
A題名の記入(内容を簡略化したもの)
B内容(相手の名前、本文、発信者の名前)
 つぎに、メールソフトの使用法について指導します。
@「らくらくメール」をパスワードを入れて開きます。
Aメールを書く場合の開き方。
B宛先の書き方(選び方)
Cメールの題名のつけ方、書き方
Dメールの送信の方法。
Eメールの受信の方法。
Fメールの返信の方法。

メールの文例1
○○先生へ

きょう、はじめてメールのべんきょうをしています。
よろしくおねがいします。

横浜市立本郷中学校○年○組
○○ ○○です
hongou-jh○○@yokohama.kanagawa.schoolnet.gr.jp

上の内容は、2回目の授業で行いましたがキー入力と漢字変換に慣れていないせいか1時間ほど
かかりました。
 
5.研究の評価・課題
5.1生徒の反応
 1年生の生徒は、メールをすることが初めての体験だったにもかかわらず違和感なくメールソフトを使っていました。
 生徒は、作成した文章や受信したメールを読み上げさせることに興味をもって何度も読み込みをさせていました。読解力のない生徒も読み上げてくれるのでかなりメールの内容を理解しているようです。
 文章作成能力の低い生徒は、サンプル文章の中から選択してメールを出す生徒がいます。一方サンプルを一切使用しないで最近の話題や自分の身の回りで起こったことなどを友達に紹介している生徒もいました。また、自分の調べたことを、友達に伝えていた生徒もいました。
 父親や母親からの励ましのメールもありました。また、父親が会社からメールをよこすなど普段疎遠な父親とのコミュニケーションをとるとができました。周りの生徒に親やおばさんからメールが届くのに一方自分の親からメールがこないと嘆いている生徒もいました。そんな生徒には、先生からメールを送るなどの配慮も必要でした。
 
5.2広がり
 区内の先生から一人ひとり宛に、区内合同で行った遠足のスナップ写真が入ったメールが送られてきました。送った先生も慣れていないせいか画面化からはみ出し、スクロールバーで自分を発見しなければならないような大きなサイズの写真でした。でも生徒は、大喜びでした。また、産休に入っている先生からの赤ちゃんの写真入りメールなどには、生徒も感激していました。
 生徒の中には、文章を書くのに時間がかかり返信がなかなかできない人もいました。
生徒によっては、情報の時間の日には朝から興奮している生徒もみられます。
生徒のメールの内容は、学級の様子や学校行事に関する内容が多いようです。
 
 
6.研究成果の内容と普及方法
 今回は、他の学校の障害児学級の生徒や同じ区の先生方の協力もえてメール交換ができました。保護者からは、パソコンや携帯電話からのメールを発信していただき授業の協力が得られました。このことは計画段階で予想しなかった大きな学習成果をもたらしました。メールのやりとりをすることにより親子の交流ができたと考えています。
 また、今回の研究で市内や区内の学校に発表できたことや教師や親とのコミュニケーションをとることで一定の成果があったと考えています。
 本校のホームページでコミュニケーションの方法の一つとして研究成果をのせています。
 横浜市立本郷中学校ホームページアドレス: http://www.edu.city.yokohama.jp/jhs/hongou-jhs/
 
7.まとめ
 今年度のメール学習は、回を重ねることによりコンピュータリテラシーや文章作成の能力、特にねらいとした障害児に必要なコミュニケーション力を身につけさせるのに大いに役立ちました。今後も、学校だけに限らず生活の中で友達同士の交流などにも役立つメールによる交流を広めていけることを願っています。
 障害児学級は、将来職業に就くための訓練と充実した生活を送ることができるようにする学習を主な目的としています。最近は、単純作業的な能力や技能を身につけた生徒より一般の生徒と同じようにコンピュータを扱える生徒を企業が求めている傾向があります。その点でも今回の情報教育(メール学習)がプラスにはたらくと考えられます。現実に3〜4年前から就職活動においてコンピュータを扱える生徒が就職活動に有利となっている現実があります。
 授業実践において「らくらくメール」は、障害の重い生徒でもメールの作成や発信することができ、障害の程度に大きな開きのある生徒たちではあったが障害児学級の生徒全員が取り組むことができました。このような障害を持った人も簡単に使用できるソフトウェアがもっと沢山出てくることを願っています。
 今後共、情報教育の一環として学習計画を立てるとともに学習時間を十分確保し、メール学習を中心にした学習活動を続けていきたいと考えています。

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