視覚障害とは

トップページ視覚障害とは視覚障害を理解しよう視覚障害生徒への指導と工夫(目次)>(現在の位置)4.指導実践事例 指導実践(2)

4.指導実践事例 指導実践(2)

生徒への定位と移動指導について

-屋内歩行と通学歩行の場面より- 教諭 太幡慶治

(1) 観点(1).(2).(3)の形成に関わる内容

(1)-1.経過

聴覚障害及び平衡覚障害を伴う生徒が入学し、中村が「こくご」の授業でコミュニケーション指導(残存聴覚を使った音声言語と点字による意思疎通指導)を中心に取り組み、側面から太幡が「朝の生活」という授業の中で歩行指導の立場から聴認知が難しいので触認知を中心とした動作指導を行った。

動作指導の中でそれまでの視覚障害(知的障害を含む)の生徒へ行なって成果を上げていた指導常識が通用しないことに気づいた。視覚と聴覚と平衡覚に障害を併せ有する生徒への動作指導を書いた本を探したが国内には存在しない事がわかった。

そこで、歩行指導の先輩に問い合わせたところ、「アメリカ視覚障害者財団からキャサリンMフーバーさん達が著した分かり易い本がある。」とHAND IN HAND”Essential of Communication and Orientation and Mobility for Your Students Who are Deaf-Blind"(1995)とTrainer's Manual(同)を紹介されたので早速取り寄せ、本に書かれている手順で追試を行なった。

本に書かれていたのは(1)〜(6)の観点にしたがって考えてみれば当たり前の指導動作が多く、動作指導を系統的に行なっていかなければならないと改めて感じた。

聴覚、平衡覚の障害が併せて有する場合も観点(1)を指導工夫により曖昧であった身体座標軸を基準として使えるようにすれば、動作指導について言えば他の視覚障害生徒に対する指導(若干の配慮は必要だが)と同じように行なうことができるのではないかと平衡・動作の追試によって確認ができた。

起点と目標予測(方向と距離)到着確認

(1)-2.生徒の状況

視覚障害の場合は、自分自身の直立姿勢がY軸として基準にならなければ身体座標軸の確定はありえず、自らの意思による空間上の位置把握が難しい。

今回の事例となった生徒は聴覚というより平衡覚の障害により身体座標Y軸が曖昧になりやすく移動の距離感がイメージしにくいという特性を持っていた。

その為に手すりを伝え歩く姿勢は大きく後ろにのけぞる形となり、歩行の距離感がないのでランドマークの確認のみで直線的に歩くしかないという状況であった。

(1)-3.生徒への指導の試み

(1)身体意識(身体像+身体図式+身体概念)を再認識させるために、壁に背中をつけ(身体座標Y軸を意識させるため)身体の各部分の関連付け動作をおこなった。

その手法はプレゼンテーションで示したように、生徒の右手首の元を指導者が右手親指と小指で挟むように固定し生徒の人差し指の元に指導者の人差し指の先を軽く接触させるようにする。

次に頭部、背、脚、かかとが接する柱角を触察させて柱角が床面から直線的に上がっていることを確かめさせ、触れているY軸を中心とした身体各部分の名前を触れるたびに答えイメージ形成を促がす。

部屋の隅の壁に背をつけ、同じ事を試みる。これにより、今まで動きの制限を受けなかったX軸とZ軸方向に対する意識を促がす。X軸方向に左手、左腕、左肩と身体中心軸(Y軸)に向かって意識をさせる。このときに脚の曲がる方向(前進方向)つまりZ軸についても徐々に意識をさせる。

四角い部屋の中での壁伝い移動で、突き当たりの隅で、頭部、胸部、腹部、脚、つま先が接していることを確かめさせY軸の確認動作をおこなう。この後、身体側面(X軸)方向へ背を接触させたままの形で移動をおこなう。腕を水平に広げ部屋の隅から隅までの移動をおこないX軸方向の移動を意識させる。この確かめの動作は、頭部の鼻、胸、腹、足の膝、つま先を接触する形で確認動作をおこなう。

次に右肘を手引き姿勢と同様に床面に平行になるようにして壁に接触させZ軸方向への移動を意識させ、隅から隅の移動動作をおこなう。次に左肘を同様に90度に曲げた姿勢で壁に接触させ、隅から隅の移動をおこなった。単純な動作ではあるが、視覚障害の動作学習の基礎基本がここにはある。視覚には頼れないだから、残存感覚を利用するしかない。移動に関わる聴覚と平衡感覚(移動感覚)が使えないのなら、触感覚を最大限に習熟するしかない。

触感覚は触れる部位で協応することで意味付けることができる。この動作指導の後で部屋の中での定位は、あてずっぽうに探し回るだけから、効率良く移動できるように改善してきた。これは生徒自身が自らの意思で移動する中で、歩行の基礎の予測と動作と確かめにより自らの身体意識と(2)身体座標軸と(3)空間座標軸をイメージしたからである。

生徒自身が考えた予測が動作後、確認によりフィードバックされてこそ動作は意味のあるものになっていく。動作開始の基準となる自らの軸と呼べるようなものを気づかせる事が指導のポイントとなった。

(2) 観点(3).(4).(5)に関わる内容

(2)-1.経過

筆者は、本校で行なわれた関東地区視覚障害教育研究会《養護・訓練部会》1998.11.13の研究協議で「養護・訓練の中での歩行指導の位置づけと課題」という研究報告を行なった。以下は、評価表である。

養護・訓練(歩行評価表)
歩行能力評価段階 修了=A、認定には不十分=B、導入段階=C、危険=D
T、校舎内歩行評価項目 評価
1 屋内手引き歩行  
2 教室内の机の位置把握 fam.  
3 室内歩行の上・下部防御  
4 教室入口発見と扉開閉  
5 手すり伝い歩き  
6 校舎内廊下を渡る  
7 廊下誘導ライン伝い歩き  
8 同一階内のトイレ位置把握 fam.  
9 トイレ内の便器位置把握 fam.  
10 階段の発見(エコーの違い)  
11 手摺を使った階段昇降  
12 階の定位  
13 校舎内の教室位置の把握  
14 校舎内のトイレ位置の把握  
15 同一階内の目的教室への移動  
16 異なる階の目的教室への移動  

歩行能力評価段階 修了=A、認定には不十分=B、導入段階=C、危険=D
U、校舎外(住宅街)歩行評価項目 評価
1 屋外手引き歩行(ヘルパー利用)  
2 AMD・白杖による伝い歩き  
3 AMD・白杖によるスライド法  
4 白杖によるタッチテクニック  
5 タッチ・アンド・ドラッグ(溝  
6 タッチ・アンド・スライド(段)  
7 方向を維持して直線歩行  
8 自動車乗降(乗用車・ワゴン車)  
9 路上の障害物回避  
10 走行中の自転車回避  
11 走行中の自動車音源定位  
12 走行中の自動車回避行動  
13 自動車回避からの回復行動  
14 騒音回避(選択聴音・伝い歩き)  
15 手がかり(ランドマーク)の利用  
16 歩車道の区別のない交差点発見  

歩行能力評価段階 修了=A、認定には不十分=B、導入段階=C、危険=D
V、校舎外(準繁華街)歩行評価項目 評価
1 U−16交差点横断(方向維持)  
2 同交差点横断(出発判断・位置)  
3 同交差点横断(車音利用・方向)  
4 同交差点横断(ベアリング定位)  
5 歩道歩行と歩道のある交差点発見  
6 V−5交差点横断(方向維持)  
7 同交差点横断(出発判断・位置)  
8 同交差点横断(車音利用・方向)  
9 同交差点横断(ベアリング定位)  
10 SOC(受動的曲がり込み認知)  
11 SOC(直角の方向取り方)  
12 SOC(元のルートへの復帰)  
13 音声信号利用(車音方向で確認)  
14 信号利用(車音の進行方向弁別)  
15 信号利用(発車音での出発判断)  
16 信号利用(車音方向で安全確認)  
17 選択聴音による環境把握(定位)  
18 目的地発見(ランドマーク理解  
19 白杖による階段上昇・下降  
20 既知の段差発見(U−6技術)  
21 環境の理解(交差点・隅切り等)  
22 交通規則の理解(一方通行など)  
23 踏切横断(方向維持・スライド)  
24 コース定位(コース理解・立案)  
25 コース定位(コース変更・方角)  
26 コース定位応用(逆コース理解)  

歩行能力評価段階 修了=A、認定には不十分=B、導入段階=C、危険=D
W、(繁華街・交通機関)歩行評価項目 評価
1 混雑地域の歩行(白杖操作技術)  
2 混雑地域の歩行(コ−スの保持)  
3 混雑地域の歩行(歩行音と方向)  
4 混雑地域の歩行(階段発見上昇)  
5 混雑地域の歩行(階段発見下降)  
6 エスカレーターの乗り口(発見  
7 エスカレーターの利用(上昇)  
8 エスカレーターの利用(下降)  
9 エレベーターの利用 fam.  
10 バス乗降(ターミナル内歩行)  
11 バス乗降(入り口発見・乗降車)  
12 電車乗降(券売機・自動改札)  
13 電車乗降(駅ホーム上の歩行)  
14 電車乗降(床の確認操作と乗車)  
15 電車乗降(ホーム確認と降車)  
16 歩行地域fam.コース理解  
17 交通機関を利用した未知地域歩行  
18 援助依頼(依頼タイミング)  
19 援助依頼(ハインズブレイク)  
20 援助依頼(公衆電話/PHSの利用  
指導前調査項目
児童生徒氏名〔       〕 生年月日〔平成,昭和  年  月 日〕手帳  種 級

指導教諭氏名〔      〕 養成課程〔日L文部省後援課程、日L厚生省委託課程、国リハ学院課程〕

保護者説明〔指導前評価(有・無)、指導計画説明・承諾(有・無)、指導開始の承諾(有・無)〕

学部〔幼稚部 小,中,長,小学部 1,2,3,4,5,6,中学部 1,2,3, 高等部本科 1,2,3, 専攻科 1,2,3〕

指導開始 〔平成,昭和  年  月 日〕 指導期間〔学期   時間、時間数累計   時間〕

終了判断 〔平成,昭和  年  月 日〕 〔保護者了解(有・無)、指導継続、指導中止〕

指導形式 〔家庭地域タイプ 学校地域タイプ 〕 〔 弱視タイプ 準盲タイプ 全盲タイプ 〕

基礎能力

T.知識 1.左右と方角 2.環境 3.用語理解、 ※判断・動作〔安全・能率・応用面〕

U.感覚知覚 1.聴覚 2.触覚 3.平衡感覚 4.移動感覚 5.嗅覚 6.視覚 7.物体知覚

V.運 動  1.歩幅 2.安定 3.速度 4.身体座標軸 5.空間座標軸 6.地理的座標軸

W.社会性  1.表情 2.マナー 3.服装 4.こだわり 5.援助依頼表現 6.断り表現

X.心理的課題1.意欲 2.理解 3.反応 4.冷静 5.回復 6.障害受容 7.感情の安定

指導目標〔盲特別支援学校内  自宅周囲 盲特別支援学校周囲道路 誘導ブロックで周辺道路迄 単独歩行で通学 〕

指導段階〔屋内歩行技術 白杖歩行基礎技術 住宅街歩行技術 準繁華街歩行技術 繁華街歩行技術〕

(2)-2.生徒の状況

屋内歩行の様子

評価表(1面)の指導事例は本校中学部から入学した全盲の生徒で保護者による手引き歩行以外の歩行ができなかった。

高等部に入り自立歩行を希望してきたので基礎的能力の把握を行ない、保護者と本人のニーズを確かめ歩行指導プログラムを組み、指導内容を説明し保護者と本人の了解を得て指導に入った。

ここでの基礎的能力とは、環境把握の目印となる感覚情報としての音源方向を把握する力や身体意識、身体座標軸、空間座標軸をも含めて評価したものである。

T.知識 2.環境、U.感覚知覚 2.触覚 3.運動感覚、V.運動 2.姿勢、X.心理的課題 3.反応について取り消し線が引かれていないことに気づかれたと思う。

この生徒の場合、自分で歩いた経験が少ないので名前はわかるが周辺環境がどの様になっているかイメージしきれていない。白杖操作に慣れてきているが、まだ触感覚を十分活かしきれていない所もあり、また直進しているつもりが曲がって進んでしまう傾向(Veering)があり、無意識に姿勢を左側に湾曲させる傾向もあるのでこの様に評価した。

また、瞬間的な判断が必要であっても対する反応が緩慢である傾向があるのでこの様な評価となった。この様な傾向があるという事を生徒自らが意識して、一人で通学したいという願望をかなえるために、生徒自身が意欲的に歩行指導に取り組んだ。

(2)-3.生徒への指導の試み

指導を行なうにあたって保護者、生徒、担任教諭に歩行指導プログラムを説明し、指導についての見通しを納得していただいた。更に、保護者には指導の見学をお願いし、指導に対する協力を得た。これだけの準備をした後で、自立活動の授業と週2回から3回(会議日以外)放課後の歩行指導が始まった。

最初は空間座標軸のイメージ獲得と白杖操作(Touch TechniqueとSlideとGuideline Technique)の習熟であった。自立活動の授業で静かになった廊下で物体知覚(エコー認知や音圧の利用)を使った歩行の練習をはじめた。側面方向の雑音の反射によるエコーを利用して、屋外への開口部や階段を見つける練習を行なった。

身辺空間説明(Familiarizationで略称Fam.)の後、学校周囲を白杖操作により伝え歩く練習に入った。はじめは塀の伝え歩き、次に溝の伝え歩き(Touch and Drag)続いて、誘導ブロックの伝え歩き(Touch and Slide)を行ないながら、白杖操作の熟達度を上げていった。移動感覚と定位感覚についても、移動位置を確認する動作を繰り返す事により確実になっていった。

心理的配慮 振れる前に一言 声かけ位置 信頼関係定位への配慮 定位を予測 誤りを動く前に直す経験を増やす配慮 予測と結果が一致 間隔を併用

ここで、身辺空間での自らの位置(身体座標軸)と目的とする位置(空間座標軸)の空間関係について説明できる様になったので(3) 空間座標軸の確認、帰宅に向けての白杖歩行指導が始まった。

まずは、東急線「妙蓮寺駅」までの誘導ブロックを使った伝え歩きからはじめた。伝え歩きをしながら側面方向の雑音の反射によるエコーを利用して、側面の状況を把握させていった。

「左からの音圧がなくなったから左側に道路があります。」

と答えられるようになると共に環境把握が進んでいった。また、車の走行音から走行方向、車種まで分かるようになり回避動作にも習熟した。誘導ブロック上に停車している車両も物体知覚の利用で見つけられるようになり、その回避行動も安定度が増した。

この段階になり、生徒自身による歩行経路の説明を行なった(4) 地理的空間定位と心的地図の確認、妙蓮寺駅までの感覚情報(Clue)と位置手がかり(Landmark)を利用した定位に問題がなかったので、誘導ブロックを使わないで感覚情報と手がかりを利用し妙蓮寺までの歩行を行なう段階へとステップアップした。

途中でわき道に入り、元の道路に戻るなどの心的地図(Mental Map)操作や心的回転(Mental Rotation)を動的に行なう指導を行なった。

その結果、連続した道筋上の手がかり(Guideline)を系統化させていく力も左右どの方向でも回避行動や回復行動で確認できたので(5) 空間概念と位置関係を関連づけを動的に把握する力を確認、電車を使う列車乗降の段階へと指導を進めた。

電車乗降を最後に持ってきたのは、視覚障害者のホームでの転落事故が少なくないからである。(1)〜(5)までの観点による指導が十分であっても定位と方向、判断が誤れば転落する。

1997年に相鉄線二俣川駅で年配の視覚障害者が、向かい側の電車の音を自分の乗る電車の音と間違えて転落し、入ってきた電車に轢かれて亡くなった。「命に関わる指導」だからこそ、専門性が問われる。専門性が伴わなければ事故につながる。

これ以降も指導を受けた生徒は願いが叶い自力通学を3ヶ月後に達成した。自分で通学できる自由を手に入れ、生き生きしている。

衝突からの回避 音と触の併用 音(不確実・安全) 触(確実・恐怖) 二つを統合利用

白杖歩行の指導

自立歩行までの指導、手引き誘導など

4.指導実践事例 指導実践(2)

Copyright(c) 1999-2008 Yokohama City Special Support School for the Visually Impaired All Rights Reserved.