特集1 特別支援教育のセンター的役割に向けて 魅力と特色ある学校づくりを目指して 本校のセンター化と今後の特別支援教育への対応 学校推進委員会 委員長 新城 直 T.本校としての先駆的な取り組みの経過 1.本校組織改編の経過  1981年に国際障害者年の長期行動計画が発表され、その基本理念として「社会への完全参加と平等」のスローガンのもとにノーマライゼーションの理念が打ち出された。もともと視覚障害者自身が、直接教育の担い手として深くかかわってきた中で、このノーマライゼーションの理念は、盲特別支援学校としての独自の様々な取り組みを進めるはずみを与えることになった。特に、本校はこのような先進的・先駆的な取り組みを進める校風を先人のご努力により創り出されており、現在様々なところでその必要性が叫ばれている「センター機能」についての各種の取り組みも既に積み重ねていた。  1998年に「新学習指導要領」が、さらに、2000年11月に「21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議」の中間報告が公表されたのを受け、本校では新しい時代に即した学校組織を創造するため、2001年に「組織検討委員会」を発足させ、学校組織全般に渡る見直しを行うこととなった。  新組織を検討するに当たっての基本的な考え方は、 「魅力と特色ある学校づくりを目指して」 〜新たな学校の創造に向けた未来創造型の学校組織とするため〜を基本理念にした。 1.学校全体として統一した効率的な運営を図りつつ、各学部科の魅力・特色を生かすための学部運営を進める。 2.教職員の専門性をより一層高め、研究・研修活動を充実させるための仕組みを作る。 3.幼稚部から普通科までの一貫した教育を進めるための仕組みを取り入れる。 4.横浜市を中心とした視覚障害教育に関わる相談・支援を進めるとともに、地域住民や一般市民への理解を進め、さらには、地域や関係機関との連携を進めるために、視覚障害教育の専門センターとしての機能を校内組織として位置付ける。 5.子どもたちへの支援・教材研究などの充実を図るため、会議日を削減・簡素化し、効率的な運営を図るための組織の見直しと新たな仕組みを検討する。 6.個別教育計画を進めるための組織的な位置付けをする。  というもので2001・2002年の2年間をかけて検討し、2003年の1年間を試行期間としてさらに見直し、2004年度より完全実施されたところである。 2.本校におけるこれまでのセンター機能についての取り組みと問題点  (1)専門性を高める取り組み  幼児児童生徒の障害の重度化・多様化が進むとともに、時代の大きな変化の中にあって、従来の教育内容だけではたちいかなくなり、教職員が新たな分野での専門性を持つことの必要性に迫られてきた。その背景の中、本校の従来の研究組織である「教科外研」の中に重複関係や情報関係部署が相次いで設置された。その中には先進的な研究を行い、実践を伴った活動を行えた部署もあったが、事務的な業務に追われる部署も少なくなかった。専門性の向上を図る観点から、再度効率的・機能的に研究活動を押し進め、各研究組織の有機的な関連の下に学校全体としての研究・研修体制を整え、それらを日々の指導に反映できるようにしていかなければならない。(専門研究組織の位置づけと研究活動の推進) (2)卒業生に対する支援  重複生徒が増加してきた頃からいち早く高等部普通科への進学を受け入れ、18歳までの教育を保障する中で、その後の進路先の開拓を積極的に行ってきた。作業所開拓の活動の中では、1980年当時視覚障害者対象の場がほとんどなかった状況の中で、教職員と保護者が協力して作業所設立の会を立ち上げるなどして、現在では教職員の手から離れて保護者による運営の作業所が確保されている。  また、1982年頃一般高校に進学希望する全盲生徒に対して、県の教育委員会ではその受け入れ態勢が整っていなかったために、教職員とボランティアを組織した「一般高校に学ぶ視覚障害者を支援する会」を設置し、教科書点訳・高校側への支援を行ったことも、その当時では特筆すべきものであった。現在では県の教育委員会にその業務を移行している。  高等部専攻科卒業後の支援に対しては、国家試験を通過し開業までの道は作ったものの、その技術向上の支援を行おうと「理療臨床研修会」や「理療臨床公開講座」を開講している。  (3)早期教育の実現  本校の幼稚部は昭和44年に設置された。当時の在籍児は少なかったが、就学以前に行う指導の大切さから、在籍以外の視覚障害乳幼児を抱えた保護者を支援する教育相談が幼稚部内の活動に組み込まれ、徐々に定着してきた。その後0歳児から2歳児までの早期教育の必要性も出てきて、在籍児以外の教育相談児を多く抱えるようになった。当然人的配置も必要で、最初は校内で融通しあっていたが、正式に早期教育相談担当として市から配当されるようになり、制度として確立されたのが平成5年であった。このことは全国的にみても最先端をいく取り組みであったと思われる。  在籍児、教育相談児の区別は保護者の選択によるが、養護学校に幼稚部の設置がないことなどからも、近年では多種の障害を併せ持った視覚障害乳幼児を受け入れている。その数は非常に増え、幼稚部を終えた後は各種養護学校や居住地校の弱視学校、個別支援学級に就学するケースも多い。  その就学相談にあたっては課題も多くある。幼稚部職員だけの支援にとどまらず、先の見通しを持った学校全体としての相談活動をどう行うか、あるいは本校への就学を希望した場合には、その多様な障害に対応できる教育内容が盲特別支援学校内部で準備できるかどうかの問題もある。また、他校に就学した児童への継続的な相談支援なども必要である。特に横浜市では、昭和50年頃には弱視学級のセンター校を設けて通級指導を行うなどの体制を取っていたが、平成7年には、保護者の希望により該当児童がいる居住地校に設置が可能になったことで、弱視学級間の連携が整った。そのことにより、弱視学級に学ぶ児童生徒への支援を盲特別支援学校が行うことは少なかったが、今後はもっと連携を強化したり、養護学校に学ぶ視覚障害者への支援も視野に入れての活動を行わなければいけない時期にきている。最近では全盲児が一般小学校に在籍して学ぶケースが増えてきて、その支援には盲特別支援学校が積極的に関わることが求められている。  (4)交流教育の促進  本校小学部では、障害児校との交流が受け入れられ難かった25年以上も前から近隣小学校との交流を実現してきた。近年一般社会の理解が進み、交流相手先の受け入れ態勢もよく準備され、交流教育のよりよい実現が容易になってきている。本来障害児は居住地域の中で受け入れられるべきであり、横浜市では平成7年より居住地校の小学校が該当児童を行事交流に迎え入れることを勧め、平成13年には中学校にまで広がった。近年一般校から様々な支援依頼がきており、理解啓発活動を広げている。  また、保護者の意識も変容し、地域で我が子の生きる道を模索する中で、学校選択をするときに居住地校か障害児学校かの二者択一ではなく、学習は専門教育の受けられる盲特別支援学校で、社会性は交流学習の場でと希望するケースが増えてきた。それに対応するために、さらなる交流教育の充実と支援が必要になる。特に居住地校での定期的な授業交流を支援するときには、教科学習の内容と指導方法など相手校との綿密な打ち合わせが必要になり、十分な理解を得た上での実施となる。  いずれにしても、従来のような盲特別支援学校在籍の児童生徒のための教育活動だけでなく、地域に学ぶ視覚障害者や交流で出ていこうとする者への確かな支援を実現するために、盲特別支援学校教職員の意識改革や体制作り、さらにより高度な専門性が要求されている。  (5)地域との連携  従来、地域との連携は強かったとは言えない盲特別支援学校の存在であった。近年、盲特別支援学校生徒の通学環境を整えようと設置された「スクールゾーン対策協議会」や中学校区を主体にした「学校家庭地域連絡協議会」の活動で、近隣小中学校と交流を推進している盲特別支援学校の存在も注目され参加できるようになり、地域の町内会との結びつきがより強固になってきた。また、専攻科が実施している臨床実習、校庭や体育館の施設開放活動により、盲特別支援学校の存在アピール度が高くなった。と同時に地域住民の眼が温かく、協力できることがあれば積極的に力になりたいとの姿勢は近年の社会情勢の動きに連動しているようにも思え、それに応えられるような盲特別支援学校の体制作りが迫られていると考えている。 U.魅力と特色ある学校づくりを目指すための取り組み  組織改編に伴い、本テーマに関連する諸課題に対応するため、2003年度より「学校推進委員会」が新しく発足し、同委員会において全校的な視野で検討する運びとなった。この設置目的は、「これからの視覚障害教育に求められている教育像を本校の教育に取り込み、視覚障害教育の中心的拠点として特色ある学校および21世紀の視覚障害教育に対応でき、機能的かつ連携のとれた学校とするため、本校の基本方針に関わる諸課題を検討し、職員会議・学部会等必要な部署に検討を依頼する」というものである。その構成メンバーは、校長 副校長 幼稚部1 小学部1 中学部1 普通科1 専攻科1 管理部1である。(必要があれば、議題に関係する分掌代表等も参加する。)  以下、学校推進委員会での検討経過について記述する。  2003年度においては、「横浜市障害児教育プラン」への対応を中心に活動を進めた。横浜市における特に視覚障害を主とする教育のあり方については本校がその中心的な役割を果たさなければならず、教育当事者の専門家としての責任ある提案をしていくことを前提に検討を進め、基本的な対応方針として、以下のように取り組むこととした。  (1)横浜市障害児教育プランのパブリックコメントに積極的に意見を出していく。  (2)「今後の特別支援教育のあり方」・「横浜市障害児教育プランに関わる学習会や研修会に積極的に参加し、できるだけ多くの情報を得る。その結果、平成16年3月16日締め切りの「横浜市障害児教育プラン」のパブリックコメントに本校全体としての意見を取りまとめ、提出した。(今後に向けての提案) @ 視覚障害教育の拠点専門機関として、今後とも現在の形態は存続しつつ、上記の内容をふまえた上での柔軟な対応ができる内容としていただきたい。 A 現場の教員を交えた中で検討の場を早急に設け、他都道府県には見られない、横浜らしい特色のある学校づくりを進めていただきたい。  さらに、2004年度の学校推進委員会として以下のことを検討・実施した。  1.今後の特別支援教育及び横浜市障害児教育プランに関わる基本方針の検討  (1)学校推進委員会が主催して、7月9日(金)に横浜市教育委員会障害児教育課 主任指導主事齋藤肇氏を講師として招き、「今後の特別支援教育と横浜市障害児教育プランについて」(副題:横浜市における視覚障害教育のあり方と横浜市立盲特別支援学校に望むこと)をテーマとして学習会を開催し、全教職員で理解を深めた。  (2)本委員会内においては、横浜市障害児教育プラン(現案)・中央教育審議会による特別支援教育を推進するための制度の在り方について(中間報告)等についての基本的な理解を深めた。  (3)他団体・他機関が主催するシンポジウム・学習会に参加し、積極的な情報収集に努めた。  2.本校及び各学部の特色づくり推進のための検討  (1)学校推進委員会の方針に沿って、全学部において検討委員会を設置していただいた。  (2)専攻科ビジョン検討委員会の検討内容の理解を深めた。なお、同内容については、時期を見て全教職員にも理解を深めてもらえる機会を設けることを検討した。 V.本校としての基本的な視点 (1)各学部の実態や考え方はどうか。 ・それぞれの学部において、特殊教育の考え方と特別支援教育の考え方のどちらの方がよりふさわしいのか。 ・重度化・重複化・多様化等により、事実上特別支援教育化しているのではないか。 ・視覚障害教育の専門性が確保されているのか。 (2)視覚障害教育を専門とするセンター的役割について ・他校で学ぶ視覚障害を有する幼児・児童・生徒に対する支援体制はできているのか、または検討されているのか。 ・他機関との連携体制はできているのか、または検討されているのか。 ・地域住民や一般市民に対する啓蒙・啓発活動及び協力体制を作り上げていく等の仕組みはできているのか。 ・視覚障害教育を専門とする特色や魅力ある学校・学部づくりが進められているのか。 ・視覚障害教育のより高い専門性を確保するための仕組みはできているのか。 (3)単一の視覚障害幼児・児童・生徒に対する教育のあり方をどう考えるのか。 (4)障害を併せ持つ視覚障害幼児・児童・生徒に対する教育のあり方をどう考えるのか。 (5)特別支援教育化における視覚障害者の職業教育をどう進めるのか。 ・特別支援学校という枠組みの中でのあはき職業教育のあり方はどうか。 ・後期中等教育の枠組みで基本的にふさわしいのか。 ・神奈川県内にあはきの職業教育をする盲特別支援学校が3校も必要なのか。 ・将来に渡って生徒数を確保するための方策は検討されているのか。 W.視覚障害者の職業教育の今後の望ましいあり方について  この問題については、本校高等部専攻科で平成15年の4月より、「専攻科ビジョン検討委員会」を設置し、精力的な検討を行ってきた。そして、今回の「横浜市障害児教育プランへのパブリックコメント」の提案に際して検討を行ったので、以下にその結論を記す。  1.あはき教育の重要性と本攻専攻科の特色  視覚障害者にとってのあん摩マッサージ指圧、はり、きゅうの職業教育は極めて重要であり、本校専攻科としても、この立場に立ってその充実を図ってきた。その結果、以下のような実績を積み重ねてきており、それが本校専攻科の特色にもなっている。  (1)本校高等部専攻科では視覚障害者の就労の場を確保するため、臨床力を向上させるなど、教育の充実を図るとともに、進路指導に力を入れてきた。具体的には、従来の進路先である治療院や病院への就職に加え、新しい職域であるペルスキーパー職や特別老人ホームなど高齢者施設における機能訓練指導員としてのマッサージ雇用などに力を入れてきた。その結果、多くのヘルスキーパー等を社会に送り出し、極めて高い就職率を誇っている。  (2)全国の盲特別支援学校の中でもあはき国家試験の高い合格率をあげてきた。  (3)臨床実習で年間約3,000人の患者を施術し、地域の人々の健康の保持・増進に寄与している。  (4)研究活動にも力を入れ、各種の研究会や学会での研究発表を行ってきた。特に、赤外線サーモグラフィの研究ではいくつかの学会発表を行ってきた結果、日本医師会の正式学会である日本サーモロジー学会理事の重責を担っている。  2.今後のあはき教育のビジョンとこれまでの検討経過  本校専攻科は、横浜市における視覚障害者の職業教育の場を確保し、社会的責任を果たすべく、その充実を図ることを基本コンセプトとしている。今後に向けては、この基本コンセプトをもとに、本校高等部専攻科を継続・維持し、さらに発展させていくことが何よりも必要である。  また、教育をめぐる諸情勢の変化に対応するため、本校専攻科では、平成14年4月より「ビジョン検討委員会」を発足させ、精力的な検討を行うとともに、今回の横浜市障害児教育プランについての検討も行った。これらの中では以下のような課題も明らかになってきた。  (1)社会のニーズに応えるべくより質の高いあんま・マッサージ・指圧師、はり師・きゅう師を養成していくために、ハード・ソフトの改善を図る必要があること。具体的には、臨床研修センターや教材教具供給センターとしての機能が必要になり、また進路に合わせた研修課程の設置などが必要になること。  (2)後期中等教育における単一視覚障害者を対象とした教育を充実させていくための場が必要になること。 X.今後に向けて  学校推進委員会としては今後は次のように考えている。  「横浜市障害児教育プラン」に示された平成16年度〜20年度の実施計画に合わせ、本校の特別支援教育の実施においては、現在は以下のように検討を進める予定である。  平成16年度:基本的な学習及び情報の収集  平成17年度:各学部の魅力と特色ある学部づくりの検討  平成18年度:本校全体としての基本方針の決定  平成19年度:横浜市教育委員会・神奈川県教育委員会等他機関との調整・検討  平成20年度:施行または実施計画の策定  一方、平成15年度から10ヵ年を計画期間とする新しい「障害者基本計画」が策定されている。極めて重要な理念であるため、最後にこの中の一部を抜粋・紹介し、本稿を終えることにする。  「21世紀に我が国が目指すべき社会は、障害の有無にかかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会とする必要がある。  共生社会においては、障害者は、社会の対等な構成員として人権を尊重され、自己選択と自己決定の下に社会のあらゆる活動に参加、参画するとともに、社会の一員としてその責任を分担する。  他方、障害者の社会への参加、参画を実質的なものとするためには、障害者の活動を制限し、社会への参加を制約している諸要因を除去するとともに、障害者が自らの能力を最大限発揮し自己実現できるよう支援することが求められる。  人権が尊重され能力が発揮できる社会の実現を図ることは、少子高齢化の進展する我が国において、将来の活力を維持向上させる上でも重要である。  国民誰もが同等に参加、参画できる共生社会は、行政だけでなく企業、NPO等すべての社会構成員がその価値観を共有し、それぞれの役割と責任を自覚して主体的に取り組むことにより初めて実現できるものであり、国民一人一人の理解と協力を促進し、社会全体としてその具体化を着実に推進していくことが重要である。」