特集2 専門性向上への取り組み  弱視研究部 実践報告 弱視用補助具の使用法と活用法 弱視教育研究部 吉木功 太幡慶治  弱視教育研究部では、研究テーマを弱視幼児・児童・生徒のための補助具の使用法及び活用法の研究と定め、弱視幼児・児童・生徒の見え方の研究、拡大読書機の特性と処方の研究、弱視レンズの処方と活用法の研究を、それぞれ視覚器の構造と機能・見え方に関する研究グループ、拡大読書器研究グループ、レンズ処方研究グループ、視機能評価研究グループの4グループに分かれて研究してきました。  以下に、研究した内容をグループごとに報告します。 T 視覚器の構造と機能・見え方に関する研究グループ  弱視児童・生徒の見え方は、千差万別です。  見えているようで案外見えていない。見えていないのかと思うと意外に見えている。「見えていないのかと思っていたけれど、案外見えているのね。」という言葉は、弱視の人を傷つける言葉であるので注意を要します。 ≪以下の事柄は、弱視児童・生徒の見え方について、弱視の人の会話や発した言葉の記録より、抜粋したものです。≫  ・見ようとしても、なかなか良く見えない。(見ようとしないと、見えてこない。)  ・警報器の矢印を、なかなか見分けることが出来ない。(晴眼者は、踏み切りの50メートル手前から、見分けることが出来る。)  ・ものを見分けるのに、時間がかかる。(パッと見てわかる、チラッと見てわかるなどが、困難である。)  ・不慣れな場所や場面での環境認知に、もどかしさがある。  ・顔を覚えるのが苦手である。  ・タクシーか乗用車の区別は見分けられるが、空車かどうかは、単眼鏡を使ってもわからない。(タクシーを、ひろうのは気が重い。)  ・歩いていて何を売る店なのか、見分けられないことが多い。店頭の商品についてもそれが何であるのか、相当眼を近づけて見ないとわからない。初めての店などでは、目的の商品がある場所に、たどり着くまでが一苦労である。  ・頼りになる情報の多くは、文字情報である。 1.弱視の定義 (1)教育や福祉を対象としての弱視(教育的弱視)     Low Vision(partially sighted)  両眼ともに、器質的な変化があって、治療してもよくなることは、まずないものです。 この場合、盲特別支援学校などで弱視教育を受けることになります。  従来の弱視の定義では、両眼の矯正視力が0.02以上0.3未満の者と言われています。(両眼の矯正視力が0.02未満の者は盲と言います)  しかし、現在では実状をふまえた弱視の定義ということで、両眼の矯正視力が0.3未満の者で、主として視覚を用いた学習や日常生活の諸行動ができる者とされています。 (2)治療の対象としての医学的弱視     AMBLYOPIA  視覚の発達段階において、斜視、強い屈折異常などで、視覚の発達が遅延した状態で、正常な矯正視力が得られない者です。早期からの治療が有効で、正常視力を獲得することもできます。 2.目の構造と機能 (1)概論  視覚器の構成:眼球、付属器  位置:頭蓋骨の眼窩のなかで保護される。  役割:眼球と視神経はものを見るという機能。     付属器はそれらを助け、保護。 (2)各部の働き  A 眼球(成人で直径約2.5cm) a.角膜  眼球のいちばん外側を覆っている膜。外からの光を目の中に入れる。 b.強膜  白目といわれる部分で、白くかたい膜。  角膜と強膜により、眼球の形が保たれている。 c.ぶどう膜  強膜の内側にある膜。虹彩・毛様体・脈絡膜から成る。   d.虹彩  茶目といわれる部分です。中央には瞳孔があり、瞳孔を大小させ、目に入る光の量を調節する。 e.毛様体(チン小帯)  細い線維で水晶体と連結している。、二つの働きがある。  毛様体筋によって水晶体の厚さをかえ、ピントを調節する。  角膜と水晶体の栄養分として必要な房水を分泌する。 f.網膜  外から入った光は、網膜に達してはじめて色や形、光として感じられる。網膜に 映った像は、視神経を通って脳に伝えられる。  網膜には2種類の視細胞がある。 @「錐体」:(約650万個、網膜の中心部)明るい所で働き色彩を感じる細胞 A「杆(かん)体」:(約1億2000万個、網膜の周辺に存在)明暗の感覚に関与する g.水晶体 瞳孔の後ろにあり、眼球に入ってきた光を屈折する。水晶体の厚みを変化させることで、遠近など、見ようとする像のピントを調節する。→白内障(水晶体が白く濁る) h.硝子体  眼球の内容物の大部分を占めるゼリー状のもの。外部からの力に抵抗するはたらき。 i.房水  房水は毛様体で分泌される透明な液体で、前房に満たされている。水晶体や角膜に栄養を補給し、房水の量によって眼圧が調整される。→緑内障(眼圧の上昇) B 眼球の付属器 a.眼瞼(上下のまぶた)  眼球を保護。、まばたきによって角膜の表面が乾くのを防ぐ。 b.結膜  強膜の表面を覆い、まぶたの裏側へと続いている。結膜は粘液や涙液を分泌し、眼球の表面を潤している。 (3)眼とカメラの各機能の合致 眼         カメラ      機能 強膜と脈絡膜    ボディ      暗箱 角膜と水晶体    レンズ      光を屈折して網膜に像を結ぶ 水晶体の曲率変化  レンズの移動   ピント合わせ 虹彩        絞り       光の量を調節 網膜        フィルム     感光面  ※視機能:目のはたらきのこと、視力、視野、色覚、光覚、屈折、調節、両眼視、眼球運動など。  ※視機能の中で、特に視力、見える範囲の視野は重要。 3.視機能の損傷と見え方の傾向  弱視の見え方は千差万別であり一概にこういう見え方をしていると判断してはいけません。我々は治療を目的とする医療的な見方をするのではなく、学習の実現を目的とする教育的な見方で「弱視」を捉えるべきだと考えています。その捉え方で、本校での生徒への指導経験から「視機能の損傷と見え方の傾向」と、その「機能制限と補償方法」についても併せてまとめました。 (1)網膜色素変性  網膜色素変性は、まぶしさ、コントラストの低下、視野が狭くなる、夜になると道路が見えないなどの傾向があります。これにより、墨字の読速度は低下し、歩行は困難になる場合が少なくありません。  この場合は、拡大読書器による拡大は逆効果となります。拡大を考えるよりも、高コントラストによる鮮明な画像をルーペ等の補助具により、獲得させる方が有効な場合が多いようです。さらに、読速度が低下した場合は、点字の導入が必要となり、歩行についても白杖の導入なども必要となります。 (2)強度近視  強度近視は、ぼやけや視野の中心部や周りが見えにくくなる傾向があります。これにより、墨字の読速度は低下し、必要なものを探すことが困難になります。  この場合は、拡大読書器による拡大が有効な場合が多いようです。眼球の打撲により網膜はく離をおこし、失明するケースがあるので指導上の配慮が必要です。 (3)白内障  白内障は、コントラストの低下やまぶしさにより見えにくくなる傾向があります。これにより、墨字の読速度は低下し、必要なものを探すことや晴天時の歩行がまぶしさにより困難になります。  この場合は、拡大読書器の白黒反転による光量の削減や白黒反転コピーが有効な場合が多いようです。歩行についても白杖の導入などが必要となります。 (4)黄斑部変性  黄斑部変性は、視野の中心部が見えにくくなる傾向があります。見たい部分が見えにくくなるために、墨字の読速度は低下します。周辺は見えるので歩行などに支障がおこるケースは少ないようです。  この場合は、拡大読書器による拡大文字が有効な場合が多いです。 (5)緑内障  緑内障は、視野の中心部や周りが見えにくくなる傾向があります。これにより、墨字の読速度は低下し、必要なものを探すことや歩行が困難になります。  この場合は、初期は拡大読書器による拡大文字や白黒反転文字で対応しますが、進むと点字への切り替えや歩行についても白杖の導入などが必要となります。 4.ロービジョンエイド −拡大読書器・弱視レンズを中心として− (1)網膜像の拡大 @対象物に目を近づける  *弱視机も含む A対象そのものを拡大する  *拡大コピー、手書き、特別の製作 B弱視レンズで拡大する C拡大読書器(CCTV)で拡大する U レンズ処方研究グループ 1.レンズに関する基礎知識  弱視レンズとは、見ようとする外界の事物(文字を含む)の網膜映像を拡大するために作られた光学的器具類を総称する。 2.レンズの性能に関する用語  レンズの厚みと直径と重さ  表示倍率  視界の広さ  明るさ  周辺収差(像の歪み、球面>非球面)  被写界深度(ピントが合う奥行き)など。  例えば、レンズの倍率が増した場合、視界は狭く、明るさは暗く、被写界深度は浅く、収差は大きくなり、重くなり、価格は高くなる。 3.レンズの長所と短所  弱視レンズ使用の長所:小型で携帯性に富み、活用範囲が広い。  弱視レンズ使用の短所:実視界(見える範囲)が狭く、倍率は最大20倍まで。 4.弱視レンズの種類 (1)遠用弱視レンズ @単眼鏡・双眼鏡 A手持ち型・眼鏡型 B円筒型・非円筒型 (2)近用弱視レンズ @手持ち型・卓上型・眼鏡型 A低倍率(×5中心)・中倍率(×10中心)・高倍率(×15以上) B1枚ルーペと重ねルーペ C照明なしと照明つき 5.遮光眼鏡  まぶしさ(羞明)の軽減  *サングラスと異なり、特定の波長をカットすることでコントラストを低下させず羞明を軽減する。 V 拡大読書器研究グループ 1.拡大読書器とは  拡大読書器(CCTV/closed circuit television)とは、簡単にいえば、ビデオカメラなどで撮った文字や図などの画像を、家庭用テレビまたはパソコン用モニターに拡大して映し出す機械のことです。 2.拡大読書器選びのポイント (1)据え置き型(可動テーブル付き)かマウス型か。  最近はポータブルタイプのものが多く発売され、 新たな活用場面が増えてきました。 (2)コントラスト調整ができるかどうか。 (3)どれくらいの倍率で拡大できるか。  最大40倍程度まで拡大できるものもあります。 ポータブルタイプのものはまだ拡大率が低く、 15倍程度のものが主流です。 (4)焦点合わせの方法  最近はオートフォーカスのものが主流ですが、  操作バーによるマニュアル形式のものもあります。 (5)カラーかモノクロか   最近カラーでもモニター付きで、19万円台のものが発売されるようになりました。 W 視機能評価研究グループ 1.視能訓練について (1)視能訓練とは @どうやって見る意欲・見る力を育てていけばいいか。 A.まず一人ひとりの見え方の違いを知る。 B.見る喜びを味わうことにより、意欲を育てる。 C.はっきり見えなくとも、推測し、正しく読み取る力を育てる。 D.見たい物を見たい時に見ることのできる能力を育てる。 E.自分の眼の特徴を自覚し、使い方を工夫できる能力を育てる。 (2)視覚認知の基礎指導    @「見ることが嫌にならない」「見ることが楽しい」 「積極的に見よう」とする意欲を育てる。 A手指を使い操作する能力を高める。 B見る経験を豊かにする。 (3)視能訓練の実際 @見方の訓練(単眼鏡等の工学的器具の使い方) A知覚力、認知力の向上及び視経験(いろいろな 物を見る機会を増やす) B訓練前の留意点 C訓練上の留意点 D視知覚能力の評価 E訓練例・・・近用弱視レンズ訓練など  以上が、今まで行ってきた研究内容です。まだまだ、研究途中のものなど課題も多く、今後さらに研究を深めていきたいと思っています。