視覚障害児者の歩行指導と課題 歩行担当者 太幡慶治 1 はじめに  今、”歩行指導の質”が問われている。七〜八年前なら、授業時間の負担の関係で歩行指導を持つことになると、歩行訓練士に1週間程度の歩行指導者研修を受け、付け焼き刃で保護者を前に分かったふりをして歩行指導ができた。  今は違う。その盲特別支援学校にいる歩行訓練士の数や名前を保護者が知っている。そういう情報を調べて専門的な指導が受けられる盲特別支援学校を選び、入学する時代になった。教科指導についても教材教具や設備の質、弱視教育指導や情報教育指導の質を比べて学校を選ぶ「量より質」の時代になった。自立につながるが生命に関わる歩行指導の質は、保護者にとって妥協のできないところである。 この様な流れの中、本校の歩行指導の現状と課題について書くことにした。  神奈川県東部の横浜市には、横浜市立盲特別支援学校・学校法人横浜訓盲学院の2校があり、西部の平塚市には県立平塚盲特別支援学校1校がある。本校を除く他の2校には児童生徒寮があり、寄宿舎指導が行われている。本校の場合は「市民の中で暮らし、通学する中でこそ社会経験を積むことができ、自立へつながる」という創立者の淺水十明初代校長の考えや横浜市移管後は横浜市の意向「家庭からの通学を対象」もあり、明治21年の創立から今まで寮を持つことがなかった。  寄宿舎を持たない本校の宿命として、毎日の通学が最優先の問題となる。幼稚部・小学部と進級していく中で、通学を手引き歩行から白杖歩行にして欲しいという保護者の要求が高まっていく傾向がある。保護者の思いや一人で通いたいという児童(小学部)・生徒(中学部・普通科)の思いを受けて、小学部低学年から自立を目指した路上の歩行指導が始まる。電車などの交通機関を使った歩行指導は、この次の段階で小学部高学年から高等部本科普通科低学年で行われている。専攻科の学生については、専攻科の入学資格に自力で通学できることが条件付けられているので、受検を希望される方は神奈川県内の視覚障害リハビリ施設で歩行訓練を受け、本校まで安全に自力で通学できるようになってから専攻科へ願書を出し、受検となる。本校には、視覚障害リハビリ施設の指導員と同じ厚生労働省の視覚障害生活訓練指導者養成課程を修了した歩行訓練士と呼ばれる教員が複数いるが、そのような専攻科希望者のニーズには対応できない。制度の制約で人的資源が上手に活用されていないのが現状である。 2 指導体制について  本校では、交通機関を使った通学に関する歩行指導を行うのは、指導者養成課程を修了した教員(以下、歩行訓練士とする)である。交通機関を使わない学校周辺の歩行指導については、歩行担当者会が年間を通して行う歩行指導技術伝達講習会(夏休み期間に集中して歩行訓練士が講師となって実施する研修会のこと。本校教職員を対象とするが、本校卒業生の視覚障害者を受け入れる県内授産所や作業所職員、福祉行政機関職員、視覚障害の児童生徒を抱える養護学校教員や弱視学級教員も参加を認めている。一般に公募しない。)に出席し、一定の項目(添付の資料3・4を参照)の指導技術をアイマスク体験の上で習得した教員を補助的な歩行指導者として認め、指導を任せている。現在は、歩行研究部が講習会を引き継いで行っている。児童生徒の生命がかかる交通機関を使った歩行指導を、様々な学部事情に縛られている6名しかいない歩行訓練士ですべてをカバーするのは無理な話である。生命がかかっているので、指導の質は量は共に落とすわけにはいかない。そこで、同じ指導者養成課程修了者がいる地域の視覚障害リハビリテーション施設との連携が行われるようになった。本校の近くの新横浜駅付近には横浜市総合リハビリテーションセンター、山手駅付近には横浜訓盲院生活訓練センター、川崎駅付近には川崎市点字図書館生活訓練部、相鉄線二俣川駅付近には神奈川県ライトセンター、藤沢駅付近には光友会湘南希望の里、ちょっと遠くなるが小田急本厚木駅付近には七沢ライトホームがあるので、生徒の居住地域に近い所に連絡を取って歩行指導の連携を依頼するようにして「歩行指導の質」を確保するようにしている。 3 歩行指導者養成  本校でも歩行訓練士に仕事が集中しないように、通学指導ができるレベルの歩行指導者を増やす指導者養成への試みは、何度も繰り返された。日本ライトハウス養成部での指導者養成カリキュラムを参考にして我々が講師になり、本校職員に実技実習や歩行訓練基礎論や歩行訓練応用論の講義を受けてもらい、同じ歩行指導のビデオを見て「歩行評価」の目のつけ所や評価のテストを受けて頂いたが、「指導の質」を求める我々が考えるレベルではなかった。日本LH養成部長(当時)の芝田裕一先生(現:兵庫教育大学大学院教授)が、「君らが指導者養成を行うと、養成された指導者は決して君らが満足するレベルにならないし、研修で共通イメージを持つことも難しい。指導者養成には、別のノウハウが存在するからだ。現在は自分の課題に精一杯で、それを学ぶ余裕はないからだ。」とおっしゃった通りであった。そこで指導者養成でなく、指導者の補助的役割を目指す職員や歩行指導技術を生徒の動作指導に役立てることを目指す職員に対する講習に目標を変更し、歩行指導技術講習会とした。  歩行指導技術講習会の内容は、歩行指導者補助ができるレベルを目指し、実技を中心として歩行指導技術を体験できるようにしている。開始当初の内容はアイマスク体験、屋内歩行、手引き歩行、手引き歩行指導法、ランドマークとクルーの考え方、ファムの理論と実際、白杖調整、直線歩行、伝え歩き、住宅地歩行と交差点発見、障害物回避、S-D歩行、道路横断のタイミングと走行車音の利用等であった。ただし、実技が中心なので理論的な裏付けが必要な歩行指導の評価観点、到達度や評価基準、歩行評価に基づく到達予測、指導計画など歩行指導の専門性を問われる部分に触れる内容については省略している。  ただし、歩行指導の記録(添付資料5・6)は歩行指導者の補助的な役割を果たす上で必要なので、実技毎に書く練習をしていた。(筆者が関わった講習) 4 指導の特性と専門性  歩行訓練士間で通じる評価や指導イメージを修了者以外の人に伝えようとすると、正確な指導イメージが伝わりにくい。一人の訓練生を複数のベテラン歩行訓練士が歩行評価するとほぼ同じ評価が出てくる。(校内養成した職員に歩行評価して頂いた時に、ここに大きく差が出たので養成を諦めた。)ベテラン歩行訓練士が歩行評価から歩行指導計画を立てるとほぼ同じ計画が出てくる。ビデオで歩行指導を撮影して歩行評価を一斉に行った時に、指導経験を積んだ人の目の付け所はほぼ同じである。これらは、教科専門性と共通する。教員採用試験に合格して新採用となり、現場に配属され教壇に立ち授業を始めた頃は、教科免許を持っていてもベテランのようにいかない。評価経験がはっきり表れる実技の絶対評価では、新人はベテランの助けなしにはうまくいかないことが多い。歩行指導も教育研修や養成課程や国リハ学院課程を修了しただけでは知識的に理解はできていても評価経験が浅いので、ベテランの歩行評価と差が出てしまう。修了した後、評価の観点と基準を身につけるために、事例検討を伴う研修を現場でどれだけベテランからしてもらえるかで、専門性が一定水準に達することができるかが決まってくる。歩行指導は、基礎作りを養成課程を持つ専門施設で学ぶしかない。その後で現場に戻り実地指導経験の長い先輩に指導の指導を見せて頂きながら、実際の歩行指導のタイミングや評価観点やその基準を理解し真似をしながら自分で指導を行い、それを先輩に見てもらい指導を受け、更に指導記録や評価の指導を受けななければならない。その課程で養成課程で学んだ基礎の上に、現場での経験から歩行訓練士として「指導の質」を追い求めていくことにより一人前の指導者となることができる。このような特性を持つ歩行指導について養成課程の経験を省略して歩行指導の文献や海外で出された専門書による独学では、「指導の質」を求めて日々研鑽している歩行訓練士の水準に到達することは不可能であると思う。歩行訓練士もこれからの歩行指導は、評価の根拠となる動作を見逃さない目を持って記録を行い、予め設定しておいた評価基準に照らし合わせて歩行評価をし、ケースが理解できるように解説する力が求められる。ベテラン歩行訓練士は、意欲と知識を持って入ってきた修了者(歩行訓練士の卵)を一人前に育てる研修が行えるかという専門性が問われる。ベテラン歩行訓練士の多さは、専門施設としての「質」の評価につながり、既にできている「質」を追求する盲特別支援学校・施設連携の輪に加わることができるかの岐路になっていくと思う。通学の歩行指導は児童生徒の生命がかかる指導であるので、誰にでもできる指導ではない。   5 歩行事例検討会  本校での歩行事例検討会というと2種類ある。@は情報交換の場である神奈川県視覚障害者生活技術研究協議会の歩行事例検討会、Aは校内で養成課程から戻ったばかりの教員を対象に先輩教員が指導する歩行事例検討会である。  @は現在、年4回ほど本校自立活動室や応接室を会場として、県内の視覚障害リハビリ7施設・盲特別支援学校3校の歩行訓練士が集まって、変化した歩行環境についての共通理解を持つために情報を持ち寄って話し合ったり、交互にアイマスクをして訓練生役と指導者役となり、指導方法を確認しあったりしている。「フォローアップ研修」と呼び、指導技術などの向上を目標としている。  Aは養成課程から戻ったばかりの教員に、先輩教員が歩行指導を見せ歩行記録の方法や評価の実際を見せて歩行評価基準を研修させ、次にその教員が行う歩行指導を見て指導タイミングなどの助言を与えたり、歩行記録の記録方法など無駄がない記述を演習したり、感覚的で思い込みに流れた曖昧な評価や判断をしないように演習を行い、予測のずれと原因の追求を行う研修の場である。  私の場合も、養成課程を修了した教員とリハ施設指導員が周囲にいて、養成課程から戻ると校内外でAの研修を行った。ベテラン歩行訓練士が現場研修を快く引き受けてくれたので指導者として力量を上げる事ができた。現在の私は、逆に研修を引き受ける立場にあるが、校務の忙しさゆえになかなかそれができていないのが現状であり、養成課程から戻った先生方に支援ができていない。  私が受けた研修内容と流れは、次のような手順で行われた。歩行指導を行ったケースの初期歩行評価(添付資料1・2参照)、歩行指導の見通しと歩行指導計画(指導計画表は添付資料には載せてありません)を確認した後で、8mmビデオで歩行指導場面記録を見てから、指導記録(添付資料5・6)、歩行評価表(添付資料3・4)に目を通す。この流れで、一定以上の経験を積んだ指導者が見ると、現在の状態から遡って初期歩行評価の見落としやそれによる指導の見通しの修正点が浮かび上がってきて、短時間に要領よく指導上の問題点や力量の評価等の助言がし易くなる。  私自身がAの研修でよく言われたことは「何故に、このルート設定をしたか?」「ファム(Familiarizationの略)はもっと簡潔に!」「ケースは定位をどのランドマーク(Landmark)とクルー(Clue)を組み合わせておこなったか?」「ケースがここで迷うということは事前に予想できなかったのか?」「初期評価でケースの特性の把握が不足していたことはなかったか?」「(指導場面の中で)なぜ、ここで止めて指導を入れたか?」「何を根拠として、交通機関を利用した歩行訓練段階に移行できると判断したのか?」「評価表を見てみると、交差点発見がBとなっている。ケースは交差点に近づき過ぎていないだろうか。道路左端に寄り短距離で横断の方向を修正しているが、何を根拠としてBと判断したか」「評価は、続けてできたからこれから先もできるだろうというような感覚的なものではいけない。歩行訓練のプロである我々は、諸条件を把握した上で再現性が確認されなければできるとは言わない。」等であった。  歩行指導の上で説明のできない部分や曖昧な部分を残さないでいくという事が、「質の高い歩行指導」につながり、その積み上げが歩行指導における「安心」と「信頼」につながる。私のAの研修を受けたリハ施設の方が「歩行訓練というと感覚的なものだと思っていましたが、事実を積み上げる科学的なものなんですね。」と感想を述べていた。歩行事例検討会により力量が一定水準に到達した「歩行指導の質が保証される」ベテラン歩行訓練士が多くいる施設や盲特別支援学校が、これからは「安心して連携ができる施設」「選んでもらえる盲特別支援学校」となると思う。同時に歩行訓練士の専門性を活かせる校内体制も必要である。 6 歩行指導の出発点  歩行訓練の定義を見ると「知識・感覚・知覚・運動・社会性・心理的課題という5つの基礎的能力、技術・地図的操作・環境認知・身体行動・情報の利用という5つの歩行能力を使って安全性を確保し、能率性を向上させ、自然な歩行姿勢を獲得させると共に、個別の特性に合わせた歩行方法を獲得させる4つの条件の下で…」が出発点である。(文献1)  歩行指導の観点は自立活動領域の中に含有される次の5つの基礎学習項目から出発する。 1.健康の保持(生活時間・生活習慣・衣服調節・清潔の保持・身体意識・体調管理・生活管理・食生活) 2.環境の把握(保有感覚・生活感覚・状況認知・行動のイメージ化・空間認知・心的地図・感覚の表出・思考と判断) 3.身体の動き(動作意識・生活動作・巧緻操作・協応動作・動作能率) 4.コミュニケーション(感情伝達と他者意識・自己制御・意思伝達・言語ルール・会話表現・意味理解・コミュニケーション手段・機器の活用・自己表現・状況把握・場面理解・信頼関係) 5.心理的安定(心理的緊張・物への関係概念・集団参加・問題解決能力・自己受容・障害受容・自己実現・学習意欲・要求表出・援助依頼・不要な援助の拒否)」  盲特別支援学校の場合は、学習の一部として発想していくことになる。(文献2)  両者は出発点は違うが、視覚障害リハビリ施設の歩行訓練と盲特別支援学校の歩行指導が目指す「自立歩行の実現」という目標は同じである。目標が同じであるならば、盲特別支援学校での歩行指導水準と視覚障害リハビリ施設の歩行訓練水準には差があってはならないと思う。両者が連携し補完し合う関係が求められているので、将来的には歩行評価表や歩行記録表の共通化も視野に入ってくると思う。   7 横浜市立盲特別支援学校における歩行指導の実際  @ 歩行指導の計画  進級、あるいは転入学してくる予定の児童生徒の「ニーズ優先度」を保護者と本人と相談担当者を合わせた入学相談で把握する。入学予定の学部の担当者が、個別教育計画(横浜市書式)の基となる内容を記録し、書き出していく。この段階で、「歩行指導より点字指導を優先させて欲しい」とか、「朝は登校時の7時から帰りは授業後の3時30分から歩行指導をお願いしたい」等という要望が寄せられる。相談担当者は歩行指導のニーズを、歩行担当者へ伝えて次年度の「歩行指導の予約」をする。歩行担当者はそれを受けて、「歩行指導にかかる見込み時間」から次年度の授業数を計算し、教育課程担当者に伝える。教育課程担当者が時間割を作るときに、「歩行指導」を授業時間として組み込んでいく。学部会の承認を得て、授業の中の歩行指導が確保される。歩行指導を受ける児童生徒は、入学後「歩行の初期評価」(添付資料1・2)を受ける。これは、校舎内外を歩いたり、鞄への荷物の収納動作など日常生活動作を見せることによって、何ができて何ができないか、何をニーズとしているか、定位と移動指導において気になる特性はないか」を把握する内容である。初期評価を基として歩行指導計画を立案する。学校は行事があるので、行事による中断を加味して計画を立てる様にしている。歩行に関する初期評価と指導計画を学級担任に伝え、個別教育計画(長期・短期)に概要を入れてもらう。電子ファイル(エクセル形式)に保存されている初期評価は、指導で新しい事実が見つかる度に削除(前の記録に二重線の上書き)したり書き加えるようにしている。  A 初期評価と歩行指導計画の保護者への説明  下の画像は、本校で行なわれた関東地区視覚障害教育研究会《養護・訓練部会》1998.11.13の研究協議で「養護・訓練の中での歩行指導の位置づけと課題」という研究報告を行なった時に発表した歩行指導の評価表(添付資料3・4参照)である。現在の歩行評価表との違いは、項目が多少増えただけであり、大きな変化はない。初期の調査項目は、児童生徒氏名、生年月日、指導教諭氏名、指導根拠となる養成課程名、保護者説明の有無、指導計画説明の有無、指導開始の承諾の有無、所属学部、開始年月日、指導期間、累計時間、終了判断、指導形式、歩行に関する基礎的能力評価、指導目標、指導段階が書かれている本校独自の評価表である。96年当時、校内で試行的に作られた評価表の1つで、養護訓練T(視覚障害幼児の基礎評価編)、養護訓練U(弱視の墨字訓練・弱視レンズ訓練・拡大読書器訓練評価編)、養護訓練V(点字訓練・オプタコン・触図訓練評価編)、養護訓練W(歩行評価編)、養護訓練X(日常生活動作評価編)、養護訓練Y(情報機器活用評価編)、養護訓練Z(作業能力評価編)の完成を目指したが、中心となった複数の職員の異動により未完成に終わった。  保護者への歩行指導の説明は、先に担任と保護者で相談して作成した個別教育計画と歩行指導計画を見ながら、保護者と本人を交えて具体的な歩行指導の見通しを話すことになる。この面談を行う前に、歩行の初期評価をすませてあるので、「現在、歩行指導はどの段階にあるか」「これからの課題は何か」「これからの指導内容と、目的とする通学の自立が可能となるまでの指導時間等のおおよその見通し」が、保護者と本人に伝えられる。その結果から、何を優先したいかの意向を聞く。相談の結果、歩行指導はじっくり受ける必要があると判断し、卒業後に視覚障害リハビリ施設に入所を考える保護者や生徒もいた。  B 歩行指導量の確保と施設間連携  学校で行うことのできる週2〜3回程度の交通機関を使った通学歩行指導では、練習量が十分とはいえないので、地域の視覚障害リハビリ施設の歩行訓練士による歩行指導を併用もできることを保護者に伝える。保護者判断で、リハビリ施設に訓練を申し込み、施設から学校へ連絡を受けて歩行指導の連携が始まる。歩行指導初期は盲特別支援学校側とリハビリ施設側の歩行訓練士が一緒に指導を行い、十分に時間をかけての指導引き継ぎを行っている。  盲特別支援学校側の指導を月曜日(隔週)・火曜日・木曜日に行い、リハビリ施設側の指導は月曜日(隔週)・水曜日・金曜日に行うなどできるため、結果として生徒は専門的な歩行指導の「質」と「量」が確保されることになる。  これ以外に、視覚障害専門の生活訓練を受けるために家庭から(社会福祉法人)横浜訓盲院寄宿舎に入所し、本校に教科学習に通う児童生徒達もいる。横浜訓盲院寄宿舎は、(学校法人)横浜訓盲学院の連携施設である。横浜訓盲学院が重複視覚障害教育を専門とする先進校であるため、対象外の教科学習を行う児童生徒は横浜訓盲院寄宿舎から地元中学校や高等学校や本校に通っている。寄宿舎とは、家庭と学校が連絡を取り合うのと同様に緊密な関係となっている。話題からはずれるが、本校新転任職員の研修会を訓盲院で開き、訓盲院施設長・学院長の講話や指導の実際を見学する研修連携も過去に行われている。  C 歩行指導と記録 画像の詳細は(添付資料5・6を参照)  1時間の歩行指導を行った後、慣れない頃は記録を書くのに1時間かかったのが、歩行指導の記録である。記録を読めば、どういうケースをどう指導してきたかがよくわかる。ベテランほど、無駄な記述が無く、ポイントをしっかり押さえた指導の記述がされている。記録は個人情報であり、外への流出は許されない。本校で使っている歩行指導の記録例を挙げておいた。記録はすべて、電子ファィル(エクセル形式)として保管されており、整理番号を入力すると歩行指導開始から終了までの記録が検索できるようになっている。(添付資料5は、表)(添付資料6は、裏)指導記録は5年で廃棄なので、5年以前のものは存在しないことになっている。原型は、日本ライトハウスの養成課程での歩行実技実習で使った記録用紙である。これを土台として書きやすく、後に検索し易いように整理を考え、改良と工夫を重ねたものがこの表である。  歩行指導記録の表面は、指導年月日、生徒氏名、指導項目、所属学部、それまでの指導の累積時間数、前回の指導の申し送り、場所、指導場面(歩行の記録)、行動評価、備考(指導上の特記事項)を書き込むようになっている。裏面には、歩行指導経路、運賃、駅間距離(申請に必要)、歩行指導地域の道路地図、所要時間を記録している。地図は、本校と京浜急行子安駅を表している。最近は、ダウンロードした地図を貼り付けてそれに歩行指導の経路を加筆する場合が多い。指導する生徒に道路と位置を意識させるために「横盲ラインと浜銀ラインの北東の角」等とファムで用語を使っている。  本校の場合、歩行担当者会が行う研修を受けた職員により、東急東横線妙蓮寺駅・JR横浜線大口駅・京急線子安駅・横浜市営バス横浜盲特別支援学校入口バス停の4箇所と学校を徒歩で結ぶ通学の歩行指導を行っている。この場合も、歩行指導記録は同様に記録する。(専門的な判断が伴う歩行評価は行わない。)  下の画像(添付資料2)は、弱視児童生徒の歩行指導前に行う視力と視機能の初期評価表である。「歩行にどれだけ視力を活用でき、どれだけ視機能の制限がされているかの把握」を把握し、安全な歩行を指導する為に使う。調査する項目は、視力(遠用眼鏡)、近見視、中間視、遠見視、眼振、色覚、明暗順応、歩行指導にあたっての配慮など眼科校医の指示を受けた養護教諭の助言、視力と視機能等の情報で歩行指導時に配慮しなければならないことに絞っている。  D 歩行指導と触地図  視覚障害児者に実際に歩く経路のイメージを伝えたい場合、我々はファムを言葉で行うが、それ以外に触地図も利用できるようにする指導も行わなければならない。実際に、その場所に行ってファムできれば問題は無いが、旅行先などでそうもいかない場合もある。そういう場合、出された触地図を読み取って、既知の触地図と既知の屋内空間や地理的空間との比較で「こうなっているのではないか」と推定し、イメージを確かめる質問や歩行ができるようにすることも必要である。  実際の指導では、言葉によるファムを行い、幼児児童生徒が確かめの動作(定位と移動)を経験した後で、教室の模型や触地図を示し「室内空間の物の位置関係を確認させる」と良い。歩行(定位と移動)を繰り返し、触地図の確かめを繰り返す中で、触地図に示された未知の物に気がつき「発見」すると触地図が推測・確かめに使えるようになる。本校では下に示したような触地図(立体コピー版)がある。今回は、画像を乗せなかったがサーモフォーム版もある。 「地理的空間の指導の実際」  JR横浜線大口駅(横浜駅と新横浜駅の中間点)と本校の間の位置関係を示した触地図(右画像)である。駅前から歩道の上に視覚障害者誘導ブロックは敷設されていて、音声信号もあり、車と分離された状態で通学ができる。  屋内空間で学んだメンタルマップの考え方を応用して地理的空間ではランドマーク、クルーを利用した交差点の発見や次の目標の推測をおこなう。何度か定位と移動を繰り返しながら、触地図と結びつける指導を入れると「地図に表すとこうなるんだ」などと児童生徒は確認する。すると興味を持って「先生、こことここはつながっているんだよね」と言ってくるので、確かめの歩行を行うと予想通りの所に出られる。                     「屋内空間の指導の考え方」  本校3階教室の配置を示した触地図(右画像)である。幼児児童生徒はそれぞれの学部のある階でファムを受け、実際に移動して位置を確かめた後に、それを触地図にした教室の位置関係から「触地図にするとこう表されるのか」と生徒にメンタルマップと関連づけする指導を行っていく。屋内歩行も定位と移動の基礎学習の場である。  ここで、しっかりと指導しておかないと後の指導が大変になる。比較的に確かめやすい屋内空間はこれでも良いが、地理的空間になると距離が伸び触地図と定位関係を結びつけるメンタルマップ指導は容易なことではなくなるからだ。 経験では触地図を先に示した指導は、前記指導に比べ結果的には能率が悪い。 E 歩行指導の範囲  都市部の歩行指導は地域のリハビリ施設と連携により、指導の「質」と「量」が確保されるが、周辺部への指導となると保護者への協力を求めなければならなくなる。横浜市内から三浦市までの歩行指導は片道1時間半、横浜から相模原市北部までやはり片道1時間半かかる。この場合は、保護者を巻き込み指導を繰り返して、自立歩行へと移行させた。神奈川県の場合、幸いにして西部の平塚市には県立平塚盲特別支援学校があり、そちらの地域から本校への進学はないので片道2時間を超える歩行指導を行うことはなかった。小田原市周辺の場合は新幹線通学で小田原駅から15分で新横浜駅に着き、横浜線で2駅の本校まで1時間以内だが、この様な歩行指導の例はない。  F 歩行指導と補助具(左下画像)  歩行指導では、すぐに白杖の導入に目がいきやすく、白杖を使えない段階なのに、児童生徒に無理矢理に持たせているのではと思われる場合がある。  手引き誘導歩行により、歩行のリズムと伝え歩く基礎を身につけた後でないと、白杖どころか、手すりの伝え歩きさえ危ういことになる。盲特別支援学校では、廊下に手すりもあり、様々な器具を使って幼稚部小学部段階では歩行の基礎的な力を身につけさせている。画像は白杖を使うようになるまでAMDs(文献3)を含む様々な補助具を使って歩行に必要な経験を積ませる様子(文献4)を示している。 AMDsについては、大阪教育大学大学院教授の山本利和先生が用具開発と指導法を行っており、講習を行っている。専門家の指導、助言を受けず、背伸びしてAMDsを導入し、我流で行っても効果的な指導にはつながらないと思う。  G 歩行指導と心理的な問題  リハビリ施設と違うところがこの部分ではないかと思う。今まで、保護者の手引き誘導で安全に通学してきた快適さから離れて、干渉を受けず自分で行きたい所へ自由にいける「自由」を求める「親離れ」と、「心配で心配でついていなければ」と思う保護者の「不安」「子離れ」の心理的な問題がある。  それを理解した上で、歩行指導計画を立てなければならないのが、盲特別支援学校での歩行指導の基本である。だから、歩行指導だけ切り離して考えるのではなくその児童生徒の心理的状況と保護者の心理的状況を考えなければ、歩行指導の計画も立案できない。指導前には、保護者に対して十分すぎるほどの説明が必要となる。また、指導後には指導の成果により何ができるようになったか、次の課題は何か、何を心がけると次の成果に結びつくか、親として何をすればよいのか、何をするとこれからの伸びの妨げとなるのでいけないのかなどを記録に基づいて説明する必要がある。  H 歩行指導の基礎は自立活動として取り出して扱うだけではなく、学級指導の中で展開されなければならない。(文献5)  ビデオ放映(左画像)は、盲特別支援学校でごく当たり前に行われている教室清掃の風景である。掃除をしているのは全盲生で、丁寧に掃除機をかけている。他の学校でも掃除機を使わない他は同じであろう。でも、動きをよく見ていると掃除機という「白杖」を使って小さな「定位と移動」を繰り返していることがよくわかる。  教室の様子(左画像)は、教室の様子と掃除機の動きを線で表している。机の角を確認しながら、小さな交差点を発見し横断していく動きと同じであることがわかる。教卓は右中央、生徒は9人なので9個机が並んでいる。こうした経験を小学部中学部と積み上げてこそ、白杖歩行の基礎ができていくのである。また、教室内や廊下の移動についても、定位を常に意識させる配慮も必要である。  「予測(方向と距離)」(左画像)を見ると廊下の中心にはラインがあり、「到着確認」(右画像)を見ると手すりがあることが分かる。こういう配慮と経験をさせてくれるところが盲特別支援学校であると考える。本校の廊下の中央には衝突を防ぐためのセンターラインが引いてあり、到着を意識させるために手すりには教室番号あるいは教室名が書かれた点字表示が貼ってある。音響も1階・2階・3階では異なる。この校舎の内部塗装をした業者に話を聞くと、塗料に工夫があるそうである。本校と同じように階により音響が異なる盲特別支援学校が岐阜県立盲特別支援学校である。設計に当たって本校の塗料から構造に至るまで徹底的に研究したらしい。普段の生活の中で、常に意識せずとも「定位と移動」の経験を積み上げていける設備が盲特別支援学校には整えられていると思う。交通の便の良い所にある本校は、神奈川県の鍼師・灸師・あんまマッサージ師の国家試験会場になっている。来校された方々に「明るい校舎ですね」とよく言われるが、弱視の方に配慮し光量を十分にとりコントラストに配慮した壁と扉の色の違いにより入り口が分かり易くなっている。教室掲示や靴箱掲示を含め弱視者の歩行にも専門的な配慮を行っている。   8 歩行指導の実践からの考察  歩行指導を実践する中で得られた経験を基に試したり、指導に使って効果を上げた工夫などを書き出してみた。「実践@」は音の反響を触感覚として捕える障害物知覚の指導、「実践A」はベアリングのずれの大きさは足の向きと体重がかかる足の重心に依存するので、それを意識させてベアリングを小さくした指導の考察。  実践@ 物体知覚(障害物知覚)の導入と活用  道路の誘導ブロック上にトラック後部に本校中学部の生徒が衝突し、顔に怪我をした。音と触の併用(左画像)同じように誘導ブロック状のトラックの荷台に顔を衝突させたり、フェンダーミラーに肩をぶつける例が次々と報告された。白杖だけでは白杖を持つ人形(左下画像)のように手首から頭部までが無防備の状態で歩かなければならない。同じ全盲で誘導ブロックを歩きながら1人は避け、1人は衝突する。この違いは何かと考え、衝突を避ける児童生徒の動きを観察した。校舎内でも衝突しそうな場面で避けていく。この違いは何かと考え、反響音を上手に利用する指導が必要だと考え、指導方法の研究に着手した。衝突する全盲生徒にトンネル状になっている校内通路に連れて行き歩かせたところ、トンネルに近づくと頭が押さえられる感じがするという反応があり「物体知覚」(顔面触覚とも呼ぶ)の導入が可能と判断した。次に、静かな廊下で壁に向かって手を前に出して歩いて行く練習を行った。正面を向いた人形(左下の画像)のように音の反射で見るというイメージを持って指導を行った。距離による予測を防ぐために一回ごとに距離を変えたあと、壁に向かわせていった。すると、顔を触られる感覚の変化を言うようになり、あと2歩で壁だと正確に物体までの距離を言い当てるようになった。次に廊下を歩きながら顔を触られる感覚のある方向を指さすように指導したところ、プレイルームの広い空間でむき出しになっている柱を指さすことができた。数回練習の後で、2メートルほど離れて顔の前に下敷きを出したところそれを指させるようになっていた。屋外に出て風の吹いている屋上で壁に向かって歩く練習をし、屋外では探知する距離が変化することを学ばせた。この様な練習後、誘導ブロック上を歩かせたところ、ワゴン車の駐車を6メートル手前で、軽自動車でも4メートル手前で探知できるようになった。それでも自転車の駐車やバイクについては反射が少ないので、杖による探知しかない。この指導を受けて自力通学になり3年を経過した生徒が、「近頃はホームに立つ人も分かるし、列の後ろに付くこともできる」と言っていた。「もちろん、トラックの荷台に衝突することなどありません」と笑っていた。指導者がこの感覚を理解し、指導と評価ができると児童生徒の可能性は更に広がる。  Aベアリングと足にかかる重心の関係  道路横断でベアリングをおこす生徒の「足にかかる重心」を計ってみた。右にベアリングをおこす場合は、足の右外側に重心がある場合が多かった。重心が更に後ろにある場合は、その度合いが大きくなる傾向があった。今回は、グラフや表は載せないが、追試してみると、同じような結果が現れると思う。どうすれば本人に意識させることができるかを考え、機能訓練室にあるトレッドミルを活用することにした。水平な状態でハブをつかみローラー上を歩行する中で、足にかかる負荷を体験し、直線歩行(左画像)に対して自分の足はどの向きに曲がっていく性質があるかを自覚させた。その上で、意識して直線歩行を行ったところ、ベアリングを最小にして目的の道路横断をすることができ、この経験を基にして直線歩行距離を伸ばすことができた。足にかかる重心を意識させることが、足の方向性保持に役立つらしいという結果を得ることができた。 9 歩行指導と地域理解  視覚障害児者の歩行は、移動という動作より定位が最大の課題である。  一番の不安は、今どこにいるか分からなくなること(右画像)であり、そういう事態に陥らないように情報を集め、予測をしながら移動している。そういった位置情報処理の誤りを少なくして、安全に移動できるようにしていく指導が歩行指導である。児童生徒学生にとって何が不安なのかを、地域に理解していただく働きかけが大切だと考えている。本校では、横浜市立盲特別支援学校スクールゾーン対策協議会という集まりを持ち、地域町内会、福祉行政機関、警察、地域小中学校と連携を持ってきた。  誘導ブロック上にうっかり駐車すると、地域の方からすぐに注意されるし、警察のパトロールもあり、協議会が設置される以前に比べると衝突事故も減ってきている。しかし、十分とはいえず盲特別支援学校前の誘導ブロック上でさえ、トラックの駐車があるようなことがおこっている。白杖歩行の時に、誘導ブロック上にトラックなどの駐車があっても回避していけるように障害物知覚の指導(文献6)も欠かせなくなってきている。以前は、障害物知覚の練習はそれだけを特に練習してはいなかったが、危険な状態から自らの身を守らせるために導入期から行わざるをえない。都会では誘導ブロック上といえども駐車を疑い、「聴覚情報」を「触覚情報」で確かめながら「定位と移動」をしなければならないのであるから、その経験を十分に積ませるように配慮した歩行指導を行わなければならないと考えている。欄干のない橋である電車のホーム上も危険で、本校の通学生徒が乗り降りする東急東横線、JR横浜線、京急線に可動柵やホームドア(文献7)をお願いしているが、南北線や目黒線のように設置には至っていない。 誘導ブロック上にゴミ袋を置いたり、自転車や自動車を駐車などしないようにスクールゾーン対策協議会が作って貼っているのが、「お願い」ポスター(左画像)である。 このデザインのちらしを地域町内会に渡してあるので、  本校近くで、誘導ブロック上にうっかり駐車すると車のワイパーに地域の方がはさんでくれている。  また、盲特別支援学校職員が児童生徒の歩行指導を行っていますとのアピールを込めて、オリジナルデザインのTシャツ(右画像)を夏に着用している。これという効果はないが、「盲特別支援学校の先生が教えているから静かにしなさい。」という声を時々耳にする。地域に根付き、市民に親しまれる盲特別支援学校が、本校の姿である。 参考文献: 文献1)視覚障害リハビリテーション第59号 盲特別支援学校における歩行指導と連携 太幡(2004) 文献2)歩行訓練カリキュラム(子安・東神奈川)基礎P.12-15 神崎・池田・松永・太幡・酒井(1997) 文献3)横盲教育44号 AMDsに関する考察 P.59-63 太幡 (2000) 文献4)横浜市障害児教育研究大会発表 プレゼン表紙 太幡・中村(2001) 文献5)横浜市障害児教育研究大会発表抄録 P.8-9 太幡・中村(2001) 文献6)横盲教育45号 視覚障害生徒への指導と工夫 P.13-23 太幡・中村 (2002) 文献7)横盲教育45号 視覚障害のホーム転落事故を防ぐ為に P.24-26 太幡・松田 (2002) 文献8)視覚障害者のリハビリテーションと生活訓練 芝田裕一著 日本LH (2000) 文献9)横盲教育42号 盲特別支援学校通学路マップ P.2-16 野口・池田・松永 (1996) 文献10)横盲教育42号 自然観察会の取り組み P.24-31 太幡・大野・鳥居(1996) 文献11)横盲教育43号 点字使用者の図形表現への試み P.14-21 太幡(1998) 文献12)歩行訓練カリキュラム(妙蓮寺・大口)編 白岩・岩屋・菅原・野口・舟久保 (1991)