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3Dプリンターを利用した模型作成の試み

関東甲信越地区視覚障害教育研究会理療分科会2015年8月発表

T はじめに

我々は日ごろ、授業を進める中で必要に応じ図譜や模型を用いて説明を加える。わかりやすい図譜や模型があることで内容が深まり理解しやすくなることが多い。教科書に付録されている図譜で弱視が見てわかりやすいものも多くなってきている。点字使用者にとってはそうとは言えないものも多い。言葉だけではなかなか具体化することが難しい場合、模型があるとその助けになる。そこで、我々は市販の模型や自作の模型を用いて説明を加えてきた。自作模型は素材を工夫したりして、いろいろな方法で作製を試みた。しかし、自作模型には作製者のセンスと器用さという大きな問題点があり、完成度には大きな差ができる。そのため作ったからと言って生徒にとって理解しやすいものができあがったとは限らない。形の整った、壊れにくい、同じものが複数、他の職員の意見を聞きながら修正できる模型の作製方法はないか探っていた。   2014年度、本校に3Dプリンター(MakerBot Replicator2)が寄贈された。3Dプリンターを使えば、自分が欲しいと思っている模型が完成させられ、授業に生かせるのではないかと考え、3Dプリンターで模型作製を試みたことについて報告する。

U 作成までの経緯

3Dプリンターで模型を作製するためには、元になる3Dデータが必要である。 まず、インターネット上にアップされている3Dデータがないか検索した。  ネット上にはライフサイエンス統合データベースセンターからBodyParts3D/Anatomographyがアップされており自由に骨格や筋を組み合わせた3Dデータを作成することができるようになっていた。しかし、他の器官、例えば消化器系や感覚器系などの適当なデータを見つけることができなかった。   そこで、3Dデータを作成することから始めることとした。まず、はじめに、

1.専門業者への依頼

3Dデータの作成を専門業者に依頼することを試みたが、予算がなく断念した。3Dデータを作成する業者は多数見つかったが、1つのデータを作成するのに数万円かかることがわかり、学校予算ではとても対応できなかった。

 

2.ボランティアへの依頼

高校、大学、専門学校、ボランティア団体に3Dデータの作成を依頼しようとしている。今までのところ、話を聞いてもらえる方に巡り合えておらず、この取り組みについては現在も引き続き行っているが、成果があがっていない。

 

3.本校職員に依頼

3Dデータ作成初心者であったが、お願いすることとした。

    

以上の経緯を経て、校内で3Dデータを作成しそのデータで模型を作製することとした。

V 模型を作製するまでの手順

1.希望の取りまとめ

    

授業で必要とする模型の希望をとる(市販されていないもの)。

 

2.聞き取り

次の項目を中心に模型希望者と作成者との間で模型の概要を話し合う。

@ もとになる図譜はあるか。

A 強調したいものはあるか。

B 模型で何を教えたいか。

3.イメージ図の作成

聞き取った内容からイメージ図を作成する。

4.イメージ図の確認

希望者と作成者の間でイメージ図を基に希望に沿っているか確認する。

5. 3Dデータの作成

イメージ図を基にソフトで3Dデータを作成する。

6. 3D画像確認

3D画像で希望者がイメージした模型であるかどうかを確認し、調整を加える。

7.模型の作製

作成した3Dデータを元に3Dプリンターで模型を作製する。

8.授業で活用する。

W これまでに作成した模型の写真と生徒の声

肝小葉の内部構造の模型画像

1.肝小葉の内部構造

各角に3組の管があると言われたが、想像しづらかった。触って納得できた。 洞様毛細血管が他の血管と直角に位置しているのを見て血液の流れがイメージできるようになった。   中心静脈が排水管に見えた。小葉間動脈と小葉間静脈の血液が一緒になる様子がわかった。毛細胆管の始まり、肝細胞索との位置がわかった。

2.骨の構造(骨幹の内部構造)

骨幹内部構造の模型画像
    

骨質と髄腔が区別できた。円柱形の細い棒がたくさん詰まっているように見えた。

 

3.骨の構造(骨単位、フォルクマン管など)

骨の構造(骨単位、フォルクマン管など)の模型画像
 

ハバース層板がバームクーヘンや年輪みたいに重なっているとは言われたが、触って初めて層構造がイメージできた。フォルクマン管が横穴と言われたが、触ってハバース管とつながっていることがイメージできた。   骨細胞も入れてほしかった。

4.脾臓の内部構造

骨の構造(骨単位、フォルクマン管など)の模型画像

白脾髄と赤脾髄と言われても全然わからなかったが位置関係はわかった。莢動脈の形を図譜で説明されたが触ってイメージできた。   莢動脈と脾洞がどうやってつながっているのか知りたい。脾索の様子はわかったが、マクロファージはどうなっているのか。

5.肺の内部構造(呼吸細気管支・肺胞嚢)

肺の内部構造(呼吸細気管支・肺胞嚢)の模型画像
    

肺胞嚢はブドウの房みたいな感じだと思っていた。肺胞中隔がわかりやすかった。触ってだと肺胞嚢の周りの毛細血管がわからない。   肺胞はもっと一つ一つ離れているように思っていた。肺の中にたくさん詰まっている様子がイメージできそうでできない。

6.蝸牛の内部構造

蝸牛の内部構造の模型画像

水を入れてみて外リンパと内リンパがどう違うか分かった。前庭階から鼓室階へ揺れが移動するのが触って分かった。 蝸牛管が違う素材で作ってあると区別できる。   蝸牛管が行き止まりであることが触って分かった。

    

7.蝸牛の内部構造(蝸牛管内を拡大)

    
蝸牛の内部構造 蝸牛管内を拡大した模型の画像

蝸牛管が外れたので蝸牛の中に入っていることがわかった。ラセン器が並んでいると言われたが触って様子が理解できた。こちらで水を入れてもらった方が外リンパと内リンパの違いがよく分かった。   外リンパはどこから来るのか疑問に思う。

8.水晶体と毛様体

水晶体と毛様体 模型の画像

水晶体に毛様体小帯が付いている様子がわかりやすい。毛様体と毛様体小帯はこれで忘れない。水晶体の調節をしていることが印象付けられた。

9.鍼尖の形状

鍼尖の形状を表した模型の画像
    

触って違いがよく分かった。 教科書でみてもだいたいわかったが、触ると印象に残る。一つ一つ離れていなくて並んでいるので比較しやすい。   平面図でイメージしていたつもりだったが立体的になるとわかりやすい。

10.腰椎椎間板ヘルニア模型

    
腰椎椎間板ヘルニア模型の画像

脊髄神経が椎間板に圧迫されている様子がよくわかる。後縦靭帯と椎間板がはみ出す関係がよくわかる。 椎弓がないから見やすい。   なぜ、下の椎間孔から出る神経が圧迫されるのかが理解できた。

 

X 作製時の工夫

手のひらサイズで作製する。

 

段階を追って拡大する。

 

誤解を招かない程度にデフォルメする。

 

凹凸を明確にする。

 

着色する。

 

表面を加工する。

Y まとめ

取り組み始めて間もないが、授業に活用できる模型がいくつか作製することができた。今後、解剖学や生理学の図譜に限らず、例えば、 各種理学的検査法を示した図、変形や徴候を表した図などを模型化するなどのアイディアを集め、図譜が見えにくい生徒や全盲生徒の 理解を少しでも深められるようにしていきたい。

Z 今後の課題

1. 3Dデータ作成者を増やす

現在、3Dデータを作成できるのは本校では一人だけである。今後、いろいろなアイディアに対応するためには3Dデータを作成できる人を 増やす必要がある。引き続き各方面にアプローチしてみるが、興味がある人がいらしたら紹介していただきたい。

2. 視覚障害者にわかりやすい模型を作る

忠実に再現することにこだわると触って分かりにくい模型になってしまうことがある。あくまで、視覚障害者にとって最低限理解できる模型を 作ることが大切であると考える。生徒は何がわかりにくいと感じているのかを理解し、我々は何を教えたいか、どこまで理解させたいかを明確 にした上で、どのように模型をデフォルメするかが課題である。

3.データの共有

作成したデータを共有できる場所を設けたい。広く見ていただき、興味を持っていただくことで作成者が生まれるのではないだろうか。また、 そのデータを提供していただきデータ数が増えることで理療教育の充実が図れるのではないかと考える。

[ (参考)本校での3Dプリンター用のSTLデータの作成について

 

1.CADソフトについて

CADソフトはフリーの物から、高価な物まで様々存在するが、無料で使用できるオートデスクの123Dファミリーの中の123D Designを使用した。 123D Designは操作も簡易で、使用方法等の本も販売されているので初心者が使用しやすいソフトと考えられる。123D Designにて作成した データは汎用性の高いSTL形式で保存する。

2.123D Designからプリンターへ

123D DesignにてSTLファイルを作成した後、3Dプリンター専用ソフトのMakerBot Desktopにて読み込み、MakerBotプリンター専用出力用の 形式(X3G)に変換してプリントを行う。

3.今後の展開について

2の段階は使用する3Dプリンターで異なると思うが、STL形式のデータは汎用性が高いので、各校で作成したデータはSTL形式で保存し、学校 間などでデータ共有するのに適した形式と思う。今後、横浜市内、県内、ひいては全国の学校でデータ共有できると無駄な作成時間を削減でき、 且つよりよい模型を作成して使用できることで、よりよい指導につながると思う。この意味で、市区町村、県、全国等の規模を持つ組織のお力 添えに、一考お願いしたいものである。

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