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図書館雑誌2000年12月号原稿

横浜市立盲特別支援学校図書館元司書 渡辺浩子さん著

見えない・見えにくいということ

今日の情報化社会の中では、視覚から得られる情報は80%を超えると言われています。そんな中では、視覚障害は、情報障害でもあると言えます。 本校には、幼稚部から高等部普通科に加え、あんま・マッサージ師及びはり・きゅう師を目指す生徒たちが学ぶ専攻科があります。その年齢層は、0歳の教育相談児から60歳近くの方までと、非常に広いです。 そして、「盲」「準盲」と呼ばれる、眼鏡をかけても視力が0.04未満で、全く見えないか、見えても学習・生活面で普通文字の使用が困難な幼児・児童・生徒、および眼鏡をかけても視力が0.3未満の「弱視」の幼児・児童・生徒が入学します。現在は、121名の生徒たちが在籍しています。 そして、その約半数の生徒たちは、ルーペや拡大読書器などを使って普通文字を使用していますが、視力だけでなく、視野が狭い、色の識別が難しい、物が二重に見える、眩しい等の問題を抱えており、一人ひとりの見え方はいろいろです。

点字図書の保障

したがって図書資料は、点字・点図(注1)・触図(注2)・拡大文字・録音・対面朗読他、様々なメディアで提供しています。 近年、パソコンの普及により、電子化された文字情報を音声で聴くことができ、視覚障害者にも大きな力となっています。 ただし、ホームページの画面を読み取るソフトは、映像情報だけでは音声化できません。ホームぺージの情報には、テキスト情報も添付していただけるとありがたいです。 また、有線放送による新聞データ伝送システムや、NEWSTELECOMというパソコン通信(日経・朝日・毎日のほか、約100種のメニューがあり、世界百科事典等の辞書類の検索も可能)も幅広く活用されています。

視覚障害者の読書権の保障

自由な読書の保障のためには、迅速で十分な出版情報を必要とします。ほとんどの視覚障害者は、既にこのことを諦めてしまっています。 国立国会図書館の蔵書数は、700万冊を超えています。しかし、「点字図書・録音図書全国総合目録」に登録されている点字図書は、22,382タイトル、録音図書は、40,092タイトルです。腹立たしいと言うより、呆れるほどの貧困さです。 1988年、日本IBMの社会貢献事業により、全国で活動している点訳ボランティアの方々に、295台のパソコンの寄贈がありました。 点字図書の制作と利用者側のリクエストが結びついたこと、着手情報により重複点訳が避けられるようになってきたこと等で、点字図書が飛躍的に充実しました。点訳の際、出版物のデータがあると、自動点訳することができますし、データを音声で聴くこともできます。 出版物における「電算写植データ」の文字情報を、国会図書館へ献本する際に義務づけ、原本保障の形で、点字図書館へ提供していただけると有難いです。

レファレンスあれこれ

  • その1 修学旅行は沖縄に決めたよ
  • 文化祭が終わって、学校に静けさが戻ってきた頃のことです。高等部普通科2年生のクラス13人が、沖縄のことを調べにいそいそと図書館へやってきました。

    • なぜ沖縄へ行きたいのか
    • 全員になぜ沖縄へ行きたいと思ったのか尋ねました。クラスメイトが沖縄の盲特別支援学校へ転校したので会いたい、琉球音楽を聴いてみたい、自分では沖縄へ行けそうもないから、沖縄料理を食べたい、星の砂浜を歩いてみたいなど、その答えは多種多様でした。 続けて、沖縄のイメージを尋ねましたが、安室奈美恵、りんけんバンド、米軍基地、台風などの単語は出てくるのですが、それ以上に発展しませんでした。

    • 沖縄の全体像を掴む
    • 地理・風土・歴史・観光など、総合的に沖縄のことを把握できるように、絵本・童話・小説のブックトークをしました。

    • テーマの設定
    • 下記は、一部の生徒の(1)眼の状況、(2)テーマ、(3)利用する資料の種類を抜粋したもので、その実態も様々です。
      A君 : (1)弱視(0.08)・視野狭窄(しやきょうさく)、(2)気候、(3)墨字
      B君 : (1)弱視(0.07)・中心暗点(ちゅうしんあんてん)、(2)暮らしと農業、(3)録音・点字
      Cさん: (1)弱視(0.07)・視野狭窄、(2)食文化、(3)墨字
      D君 : (1)盲・光覚(こうかく)、(2)琉球音楽、(3)録音
      Eさん: (1)盲、(2)沖縄料理、(3)録音
      Fさん: (1)準盲・脊中側 (せきちゅうそくわん)、(2)沖縄料理、(3)墨字
      Gさん: (1)弱視(0.09)、  (てんかん)、(2)風俗、(3)墨字
      H君 : (1)盲、(2)方言、(3)点字

    • 資料請求と資料の作成
    • 横浜市中央図書館、同神奈川図書館、日本点字図書館、沖縄点字図書館、沖縄市観光協会、沖縄県立沖縄盲特別支援学校等から資料を収集しました。借りてきた資料をそのまま提供できるのは5名だけでしたので、早速、点訳・音声訳の作業に入りました。

  • その2 「茸状乳頭」は「じじょうにゅうとう」
  • 『新大字典』(講談社、1993)を引くと、「月の部首には3種類あり、肉、舟、月・・・」とあります。そして、盲特別支援学校の図書館は、専攻科を抱えているので、専ら肉月の漢字を調べることになります。 例えば、月に完という漢字をご存じでしょうか。朦朧等という文字が楽々ワープロで変換できるのに、日常使っている「中 (ちゅうかんという。おへそのツボ)」などのツボの漢字が漢字辞書に入っていません。 また、医学用語では、「舌」を「ぜつ」と読む一方、「片麻痺」は「かたまひ」と読みます。このように、医学用語の読みも独特で泣かされます。 ある日、解剖学の先生が慌てて飛んできて、「生徒が『茸』を辞書で引いても『じ』なんていう音は無いって言うんだ。」と言いました。 「茸状乳頭」を「じじょうにゅうとう」と読むのは常識です。慌てて『新大字典』『大漢和辞典』(大修館書店、1990)を調べてみると、なるほど「じ」の読みはありません。また、『ステッドマン医学大事典』(メジカルビュー社、1992)は「じょう」を採用しています。解剖学の先生と二人で顔を見合わせてしまいました。 そこで、横浜市立大学医学部情報センターにFAXで問い合わせることにしました。 『臨床歯科用語集』(金原出版、1987)及び、『歯科医学大事典』(医歯薬出版、1989)では「じじょうにゅうとう」と、『学術用語集 歯学編』(日本歯科医学会、1992)では「きのこじょうにゅうとう」と表記されているそうです。 情報センターから、「したがって、どちらの読み方でも誤りではありません」とのFAXが届いたときは、ほっとしました。

  • その3 レファレンスあれこれ
  • 本校図書館は、在籍する生徒たちは勿論、その家族や教職員なども利用者の対象としています。また、卒業生も、使い慣れているとともに、身近に代替できる図書館がほとんど無いとの理由から、利用率は高いです。 したがって、絵本から医学の専門書に加えて、視覚障害教育関連書まで、幅広い問い合わせがあります。 特に、視覚障害の原因が、内科疾患であったりすると、日常、眼疾に関するレファレンスもあります。その際には、眼科学の専門書を調べたりインターネットで最新情報の検索を行う他、医学情報センターや、地域の図書館にも協力を仰ぎます。 さらに、小学4年生の国語の教科書(光村出版)に、『手と心で読む 伝え会う心』という点字のお話が掲載されて以後、人権・交流教育の一環として、地域の学校などから、図書館の見学や図書類の貸出の依頼・問い合わせが格段に増えました。

おわりに

近年、生徒たちの障害の多様化・重複化が進み、中途失明者が増加する傾向にあります。そうした状況下で、生徒たちの読書権と図書館利用の保障が、本校図書館の最大の課題となっています。 また、本校の蔵書は普通の活字本以外はほとんど自館制作で、1冊の図書を制作するのに点訳・製本・装備の作業を経て約3ヶ月かかることも多々あります。必要に迫られて、様々な分野でボランティアさんの協力を仰ぐようになり、現在では、20を超えるグループ、数百人の方々が本校の図書館を支援してくださっています。 近年、印刷技術の向上にともない、絵や写真を多種多様に使用し、理解を深める図書が増える傾向にあります。 そんななか、点訳・音声訳する際に、より理解し易くするためにそれらの扱いをどうするか、悩みは尽きません。 生徒たちの「読みたい」「知りたい」という気持ちにこたえていきたいと思い、楽しく・利用しやすい図書館を目指して、学校中を駆け回る日々を送っています。

注釈

  • 点字用紙に、点で図を表したものです。
  • 布やフェルト、たこ糸などを使って、図を表したものです。

図書館雑誌2000年12月号原稿

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